優しく、唇を重ねる。
呼吸を奪うように強引なのに、はみはみと優しくはむそれは昨日の彼とは打って変わって甘やかで。
(あ……)
肉厚の舌で蕩かすように口内をなぞられると、背筋がぞわりと泡立つ。
「あなたが好きです」
「は、い?」
鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはよく言ったもので。
きっと私も、バカみたいにフリーズした。
「……あの、裏海先輩、私の処女に価値なんてないので、無理に責任を取る必要なんてありませんよ?」
むしろ、卒業させてくれてありがとう的な……なんて続けようものなら、多分痛い目を見ただろう。
裏海先輩は苦虫を噛み潰した表情で
「そんなわけがないだろう」と続けた。
「……榊さん、新村君をはじめ、セフレが何人もいて、男遊びが激しいという噂を立てられているの、知っていましたか?」
「なんですか、その根も葉もない
「そういう噂が立てられていたんです、三ヶ月くらい前から」
喉の奥がひゅっとなる。
三ヶ月前――ちょうど、裏海先輩が私に冷たくなった頃。
「し、んじたんですか」
「そんなわけないでしょう。ですが、噂の出所がわからない以上、軽率な行動は控えたかった。
実を言うと、それより以前から私はあなたに惹かれていました。
私に、あなたを諦めさせるために、誹謗中傷を流した人物が近くにいるのなら確実に仕留めたかったんです」
「え、あ……? なんか、ツッコミ所がいっぱいあるのですが……? えぇっと、それが理由で私を遠ざけようとしたのですか」
「……本当にすみません。相手の思惑通りに動けば尻尾を出すかと考えました。まぁ実際に出たんですけど」
「えぇ?! 誰だったんです?!」
裏海先輩があげた名前は男女2名。
女性の方はまともに会話した記憶がないが、裏海先輩のファンを公言していた人だ。
男性は――
「以前、交際を迫られたそうですね」
「……かなりしつこかったので、ハッキリお断りしたところ『お前みたいなブスにホンキになるわけないだろ』って言われましたねぇ」
「……チッ! やっぱり一発殴っておけばよかった」
「めちゃくちゃ物騒!」
「話を戻します。先日、やっと証拠を抑えたので、あなたにも事の次第を説明しようと思っていたんです。その矢先に、新村君との会話を耳にしてしまって……ごめんなさい」
「あ……いえ、それは確かに誤解しますね」
「実際、酔ったあなたの破壊力はとんでもないですからね。暑気払いの時だって何度押し倒してやろうと思ったことか」
「え、ちょ……?! 私一体何をしたんです?!」
「『私、裏海先輩のこと一生リスペクトしてます! 大好き! 抱いて!』って言いながら、胸を押し付けて来た……のは序の口でしょうか」
「立派なセクハラだぁ……」
「人をいい気にさせるだけさせておいて、翌日には『何も覚えていません』ですからね。さすがにどうしてやろうかとも思いましたよ」
「ごめんなさい!!」
顔から火が出るとはまさにこのこと。
ベットに頭を擦り付けん勢いの私を裏海先輩は制する。
「私達は思い合っていると言うのに、随分すれ違いましたね」
「えぇ、本当に……。あの、私のこと、守ってくれてありがとうございます」
「いえ……こちらこそ、あなたに冷たい態度をとったまま、性急にことを進めてしまって申し訳ない」
「ふふっ! 刺激的な初体験になっちゃいましたねぇ」
少し、困らせてやりたくて、そんな意地悪を口にした、つもりだった。
それなのに
ぽすん、と変わる視線。
いつのまにか、背中は柔らかなマットレスに沈み、視界いっぱいに広がる天井と意地悪く笑先輩がいる。
「やり直し、させてくれませんか?」
あ、と気が付いた時にはもう遅い。
とびっきり優しく、溺れるくらいに『可愛い』と囁き、蕩けるくらいに抱きしめて――昨日以上にイかされる。
裏海先輩は、やっぱりとっても意地悪だ。