「今日で、もう帰ってこない気だったのか?」
「……うん。一応、要らないものの意思表示をしておかないとって思って……」
「要らないものって俺もかよ」
「え?」
「俺のことも、あんな書き置きひとつで捨てる気かよ! ふざけんな!」
捨てるも、なにも。
馬鹿みたいに目を見開く私の顔に、ぱたぱたと雨が降る。
(泣いて、るの?)
あの智が、泣いている。
………
………
「……っ! 見るな!」
智は――乱心しているのか、私のことをぎゅうっと抱きしめる。
ハグじゃなくて
……まるで「どこにも行かないで」とばかりに、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるから。
迷子みたいな、自分より大きい男の子を、どうしてあげることもできないまま、私は呆然としていた。
そして
「……捨てても、一生忘れさせねぇから」
メラメラと、怒りのような感情が手にとるように伝わる。
「ごめ……! 私、本当になんのことかわからなくて……!」
「ははっ! だよなぁ、
「……っ!」
違うって言い切れる?
忘れたくせに?
心当たりすら、思い出せないくせに?
「思い出させたところで、そんなんじゃ意味ねぇわ」
と追い討ちが降りかかる。
まずい、と思った時には
「……! んぅ……んんんっ!」
胸ぐらを掴まれて、唇に噛みつかれた。
キスと呼ぶには荒々しく、
ぬるりと舌が挿入されたと同時に、
………
………
「ん、く、ぁ……ん」
反射的に空いた口を、智は見逃さない。
ぬるぬると絡み合う温度が、私の「なぜ」も「やめて」もとかしてしまう。
「……どうせ、出ていくなら。完全に『姉貴』辞めていけよ」
智は私の腕を取り、自室へ
ベッドに投げ出され、上半身が沈む。
でも、抵抗なんてできなかった。
(あ……)
唇をかみしめて、眉間に力を込めた智は、きっと私よりも泣きそうな顔をしていたから。
………
………
………