いくつかのファイルを抱え彼の背中を追って入った5階の資材室。
そこは背の高い棚が立ち並んでいて薄暗く、また滅多に人が来ないせいかどこか辛気臭い。
「きゃっ!」
いきなり肩を引かれ驚く彼女をドアに押し付けながら開いている片手でカチャ、と鍵をかける。
「課長、なんですか…」
「昨日のこと、少しでも思い出したか?」
………
………
………
「…はい」
仕事をしているふりをしながら嫌でも思い出していた、昨夜の醜態。
もう、穴があったら入りたいとは、まさしく今私のことだ。
バーで散々飲んで千鳥足で二軒目に入った所、1人で飲んでいる課長を見つけた私は普段は仕事のやりとりしかしない相手なのにどうしても誰かに話を聞いて欲しくて、彼の事を沢山話して、泣いて、慰めてくれる課長にもたれかかって、それから…
「ご迷惑を、おかけしました」
「別に迷惑なんかじゃなかったが…」
「え…」
彼の顔が近づいてくる。
胸が高鳴り思わず自分から顔を上げてしまった。
チュ、と触れるだけのキス、そして今度は深く唇を重ねられ、角度を変えてもうさらに深いキス。
「君は、私みたいなおじさんは嫌いだと思っていたよ」
「そんなこと…」
おじさん、と自分で言って笑っているが、彼は割りと整った顔をしているし35歳という年の割には肌も綺麗だ。
程よく鍛えている筋肉がブヨブヨとだらしなく太った中年と違ってスマートだし清潔感もある。
でも、既婚者なんだよね―…
そうは思っていても重ねられる唇を拒むことは出来なかった。
口内を犯してくる激しいキスに思わず課長の体に手を回す。
キスだけでこんなに感じることも今までなかった。