二時間後――私の身体は既に悲鳴を上げていた。
「痛だぁ! む、無理ぃ!」
「はーい、痛いですねー。でも、史佳さん呼吸止めないでねー。痛い時こそ息を吐いて」
体験手続きと簡単なカウンセリングの後、基礎のストレッチを済ませ、簡単に機材を使用した。
「最初からひどい筋肉痛になると絶対続かないから」という指導のもと、軽く汗を流す程度にとどめる。
それでも久々の運動はキツい。
二の腕とか太ももとか、普段使わない筋肉がぷるぷる言っている。
そして、現在。
筋肉痛予防にトレーナー付きの柔軟体操をしているわけなのだけれど……。
(うぅ……久々の運動で汗臭いのに、イケメンが近いとか緊張する……)
正直、気もそぞろで柔軟どころじゃない。
「史佳さん、身体硬すぎです。肩こりの原因にもなりますから、サクッと改善しましょうか」
トレーナーの
(くそう。顔は柴犬っぽい可愛い系のイケメンのくせに、ドS かよぉ!)
多分年下であろう彼はトレーニングウェア越しにもいい身体をしているのが伺える。
多分モテるんだろうなぁなんてどうでもいいことを考えていたら「集中してね」と釘を刺された。
……それにしても、さっきから距離が近い。
いや、柔軟を手伝ってもらっているんだからこんなもんかもしれないけれど……。
薄いウェア越しにくっつけられた背中や掌についどきどきしてしまう。
「はい、次は足を開脚して。つま先を掴んで。では、背中を押しますので胸を床に近づけてください」
「はぁぁぁ……ああ痛いぃ」
「息は、止めちゃダメですからねー」
響先生の大きな掌が私の背中をさするように押す……。
脇から胸の方へ滑る動きにも、太ももの付け根をぐいと引っ張られるのも、邪な気持ちが宿ってしまう。
………
………
悲しいかな、そっちの方は三年近くご無沙汰なのだ。
(響先生、女の子の扱い上手そうだもんなぁ)
イケメンで、ちょっとS気があって、こん何筋肉質ということは、多分ベットの上でもガンガン責めてくれそう。
「史佳さん、次は背筋を伸ばしますよ。開脚したまま頭の上で腕を組んで、そのまま背中を反らしてください」
「あぁ……これもキツぅ……」
肩甲骨のあたりに響先生の膝がある。
寄りかかるように、と指示されるがまま上体を反らしたけれど、天井を見上げるのが精いっぱい。
「上半身が硬いのはちょっと致命的ですね。猫背もなんとかしないと。このままだと間違いなくバストが垂れます」
「えぇ! 絶対やだー!」
年下のイケメンに忠告されるなんて屈辱的にも程がある!
ムキになってもっと反らそうとすると、背骨がビシッと嫌な音を立てそうだった。
「ダメですよ、ストレッチは力を入れるものじゃないんだから。……楽になるように支えますね」
するりと、背後から伸びてきた腕が胸にまわされ、ぐいっと乳房を持ち上げる。
「きゃ……」
「はい、リラックスして、無理のない範囲で身体を伸ばして」
ぷるんと持ち上げられた胸は、実はノーブラだ。
このジムではワイヤーブラジャーをしたままのトレーニングをお勧めしていないとかで外すように言われている。
貸出用のスポーツブラは少し小さくて……たゆんと響先生の腕に乗っかってしまった。
「恥ずかしがらなくていいですよ。これぐらい密着しちゃうのなんて当たり前ですから。――と、今日のトレーニングはここまでです。続いて、筋肉痛予防のマッサージに入りますから、軽く汗を流して五番ルームへいらしてください」
「あ……ありがとうございました」
響先生の身体がすっと離れると、なんだか寂しく感じてしまう。
自分の欲求不満具合に恥じらいを感じ、必死で赤面を隠した。
いいなああ