「ねぇ、
「裸婦画?あぁ、裸婦クロッキーは学校でやったけど、なんで?」
佳奈はソファの上でクッションを抱えたまま、なんでもないような口調で “どうだった?” と聞く。
「どうだった、って…エロかったかってこと?」
「うん」
「まさか」
そう言って彼は笑いながら本棚からスケッチブックを一つ、手にとった。
それからパラパラと捲り、鉛筆で荒く裸の女性が描かれたページを佳奈に見せる。
椅子の背に手を付き体をS字にくねらせた細身の女性がいた。
「若いモデルは高いからってんで結構年上の人が来たよ、はは」
先生や女子もいたし制限時間もあったから必死に描いてたなぁと彼は笑ってスケッチブックを捲る。
数枚の女性の絵、それに男性の裸もあった。
佳奈は内心ほっとしつつ、それでも恋人が見知らぬ女性の裸を描いていた事実に少しムッとする。
「もしかして、やきもち?」
「…別に、そういうわけじゃないけどさ」
佳奈は一呼吸おいて「私の裸、キャンバスに描いてみない?」と切り出した。
「…唐突だね」
「描いて欲しいなぁ、と思って。健治の絵好きだし…だめ?」
彼と一緒に暮らしている内に美術に疎い佳奈にも絵を描くのが大変だと言うことはわかった。
一枚の絵を仕上げるためにデートをキャンセルされた事だって少なくない。
課題を家に持ち帰って何ヶ月もキャンバスにかかりっきりという時もあり、その真剣さを少しでもいいから私にも注いで欲しいと前々から思っていた。
「大変だと思うけど、急がなくていいから…」
「大変なのはモデルもだぞ?一時間二時間、動かずにいられるか?」
「…多分」