恋のはじまり

経験値ゼロ

 急激に覚えた恥ずかしさに目を反らし、もごもごと続ける。

「……ハプニングバーってやつに連れて行ってもらっただけですよ」

「ほぉ? それで? そこで何をした」

「な、なにってそりゃ……」

「女ひとりで生活をしていてもろくに施錠もしなけりゃ、
男と二人きりになっても無防備な服装のお前がハプニングバーになんてのこのこ行ったら
カモネギどころの話じゃないだろう」

「なっ……!」

 失礼な! という私の反論は途中で止まった。

「お前、男を甘く見過ぎだろう」

 するりと、Tシャツの裾から侵入した鈴原さんの手が、

ブラを付けていない私の胸を持ち上げるように揉んだ。

「ひぁっ……!」

 平均よりもたわわに実っている私の胸。

悲しいかな、使い道のないそれが、鈴原さんの手によって容易たやく形を変える。

もにゅっと効果音でも鳴りそうに。

「ちょっちょ、ちょっと! 急に何……」

「急にでもない。俺はずっと優香をそういう目で見ている。
それなりにアプローチもしてきたつもりだ。
お前が取り合う気にならなかっただけだろう」

「……え?」

 ちょっと待て。

 それはいつ、どの出来事の話だ。

 戸惑いを隠せない一方で、心当たりがないかと言うと……

ちらつくのは過保護の数々……

「……ただの担当ってだけで、私生活の面倒までみるかよ」

「し、下心があったんですねー!」

 引きこもりがちな私をなにかと外に連れ出したり、

ご飯を買ってきてくれるのはそういうことだったのかー! 

と、こちらが恥ずかしくなった。

「えーと、えーと、その、なんて返したらいいのか……」

 頭がパニック状態でぐるぐるする。赤面も止まらない。

どうしよう。

鈴原さんと、男女の関係……考えたこともない。

いや、考えられなくはない……?

「……それなりにアプローチをかけていた女が、自分を恋愛対象と思ってくれていなかったのは仕方がないとしよう。
でもな、相手を見ようともせず、結果気が付かず、
知らないうちに別の男と軽いノリで体の関係を作っていたなんて聞いて……
腹の虫がおさまると思うか?」

 待って、とも。誤解だ、とも。

 すべての言い訳を、彼は許してくれなかった。

「んんっ!」

 乱暴に重ねられた唇が、私の言葉をすべて奪う。

 熱く、でも柔らかいそれは角度を変えては重なり、交じり合うようにはまれる。

「……俺はそこまで紳士にはなれないね」

 噛みつくようなキスの後、耳元で囁かれる低い声。

 抵抗も空しく脱がされたTシャツが私の両手首をまとめ上げた時。

私は目前の雄に食われるのだと悟り……

ほの暗い喜びを感じずにはいられなかった。

「……いいですよ。しましょう」

 私の言葉に、鈴原さんは目を剥く。

「もっと、鈴原さんのしたいことを私にぶつけてください。
小説のために、必要かもしれませんよ?」

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