恋のはじまり

怖くないよ(1)

これはいつものパターン。

見慣れている先輩店員さんは、またかと言いながらレジの交換をしている。

「唯ちゃんとほんと仲が良いねー」

その会話を聞きながら、あたしは羽織っていた制服を脱いでいる。

「しかもね、ちゃーんと自宅までエスコートしてるのがいじらしいね」

「へーい」

そう。なんだかんだでこのゆうくんこと、悠太ゆうたはいつもこの時間に終わるあたしを送り届けてくれるんだ。

 

「おい唯、ちゃりかせ」

「やだよ。すぐ乗ってどっか行くし」

幼馴染のあたしと悠太。

昔からあたしは悠太を好きなんだ。

けど悠太はチャラチャラしてて見向きもしてくれない。

でも‥‥‥最近あたしが待ち伏せされたりしていることを偶然知った悠太は、

あたしの暗い中の帰り道を送り届けてくれている。

幼馴染の特権だよね。

 

あーあ、悠太を一番知ってて、愛しているのはあたしなのに、

なんであたしは悠太にハッキリと言えないんだろうか。

「‥‥‥唯?」

「!!」

考えていたら電柱にぶつかりそうになる。

慌てて前を見れば、悠太が手のひらであたしがぶつからないようにしてくれていた。

こういうとこ、ほんと好き‥‥‥。

「ごめん!」

「いいよー。なんか悩み?」

「‥‥‥あたしさ、実は今、引っ越し考えててさ。」

「引っ越し?」

嘘。

「そうそう。なんかここから離れて自分の力で生きていきたいなって」

こんなの嘘だよ。

「だから‥‥‥ありがとね。感謝してもしきれないわ」

 

‥‥‥へたっぴ。

涙が止まらない。

これくらいも言えないとか‥‥。

「こっち向けよ。唯」

切なそうな声で呼び止めないでよ。

「今日はここでいいから。じゃ」

「待てって!」

あたしは思い切り腕を引かれて、涙ぐんでるところを目撃される。

情けないよ‥‥‥。

 

「ゆ‥‥‥悠太にはわからないよ!」

「は!?なんでだよ!なんで泣いてんだよ!!」

「知らないふりしてよ!もう‥‥‥顔もみたくない‥‥‥っ」

そこまであたしはハッキリ言ってしまった。

すると抱き寄せられて、キスをされる。

「!!??」

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