本当は終電前には終わるはずだった飲み会なのに、気が付けば既に三次会まで続いていた。
まゆみは、あーあ、とこっそりため息をついた。
黒いショートボブが、それと同時にサラリと揺れる。
お酒はそこまで弱くない。
飲み会自体はまあまあ楽しいし、メンバーだって好きだった。
まゆみの所属する大学のボーリングサークルはちょっと不思議な集まりで、月に一度メンバーで集まってボーリングに行く、それだけの活動だった。
サークルの飲み会や集まりはほとんど無くて、たまに同期と集まったりはするが、基本的にはサブサークルという位置づけだ。
そんな感じだったはずが、今日はいつもと少し違っていた。
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「せーのっ、優勝、おめでとう~!」
何回目かわからない乾杯に、まゆみも合わせてグラスを突き上げた。
そう、今日の飲み会は、サークルメンバーの優勝を祝ったものなのだ。
地区のボーリング場で行われる大会で、参加者だってアマチュアばかりだ。
それでも、規模はそれなりに大きく、優勝となればほとんどがストライクだったりと高レベルな戦いになる。
特に実績も何もないサークルとなると、それだけで大盛り上がりで――
それこそ、終電の時間なんて誰も気にしていない程になってしまったのだ。
流石に深夜2時を過ぎ、ようやくそれが最後の乾杯になる。
飲んで騒いで、居酒屋の前で解散となった。
大学の近くで飲み会は開かれ、終電が終わってもほとんどのメンバーは徒歩で帰れる距離だった。
まゆみはと言えば、電車通いの実家暮らし、他のメンバーと違って今日はもう帰れそうにない。
解散になった後、繁華街を一人、ぶらりと足を進めた。
この時間となれば、もう漫画喫茶で朝になるのを待つしかないだろう。
確か近くにそれらしきビルがあったはず――思い当たる方向に足を向けると、突然後ろからぽん、と肩を叩かれた。
「わっ」
驚いてふりむいたまゆみは、その後ろにいる人物を見てほっとため息をつく。
サークルの同期、ミサキだった。
「ミサキくんか、びっくりした~!」
「ああ、悪い、驚かせちゃった」
ミサキが眉を八の字にして笑う。
中性的な名前をしているミサキは、名前のイメージそのものの、優しい男性だ。
まゆみより少し背が高くて、中肉中背といったところだろうか。
かけている黒縁の眼鏡がなんとなく文学部のようなイメージを彷彿とさせるが、その実バリバリの理系男子だ。
そんな彼が、はにかんで言う。
「漫画喫茶?俺もかえれないんだよね、一緒に行こ」
「そうなの?じゃあ一緒に行こうか!ミサキくんが一緒ならなんだか心強いや!」
同期とは言え、学部も違うミサキとはあまり喋ったことがない。
たまにボーリングのチーム分けが同じことはあるが、いわゆる顔見知りという距離感の相手だった。