「あ、そっかぁ。花音は恥ずかしがり屋さんだもんねぇ。でも『海野さん』なんて最後に呼んだのいつだっただろ? 僕また間違えちゃいそうだなぁ」
ごめんね? と小首をかしげる拝島君。
成人男性に言うのもアレだけど、可愛い。
首こてんが可愛いなんて女子高生までじゃないのか。
どうなっているんだ拝島優。
君も私と同じ二十代後半じゃないのか。
――いや違う。しっかりしろ私。いまつっこむべきはそこじゃない。
「あのね、拝島君……」
「ん? なぁに?」
「手、をね? なんで握っているのかなぁ?」
私の両手をまるで宝物を扱うかのように両手で握る拝島君。
優しい表情に相反して、離す気がさらさらない。
言ってる側から指が絡まる。
そして
「一宮君。君もだよ……」
背後からしっかり私の両肩を
こっちはこっちでがっしりとらえているので逃げようがない。
あ、そうか。私は文字通り捕まえられたのか。
「海野さん。この後の予定はないですよね」
と、一宮君。肩に指が深く食い込む。表情が見えないのが怖い。
「えっと、あの」
「ないよね? ていうかさ、あっても僕らを優先してよ」
と、拝島君。こちらは相変わらずニコニコだけど、笑顔でだいぶ無茶苦茶言ってる。
………
………
………
ところ変わって一宮君の自宅。
私のマンションの倍以上ある階層のお部屋は、それはもう内装もおしゃれで。
(家賃いくらするんだろ……)
緊張のあまりどうでもいいことを考えてしまう。
几帳面な彼の性格らしく無駄なものが見当たらない。
拝島君は勝手知ったる様子でソファに腰掛け、私に隣に座るように促す。
「あの……二人共どういう経緯でうちの会社に……?」
「僕はデザイン部からの熱烈アプローチを受けてのヘッドハンティングだよ!」
「俺は本社からの派遣で知っての通り営業課だ。……花音は庶務課なんだな」
「あ! 一宮も結局『花音』って呼んでるじゃん」
「社外だからいいんだよ」
いや許可した覚えないけど、なんて口が裂けても言えない。
革張りの質感の良いソファは私の部屋にあったらもう他に何も置けないくらいの圧迫感がある大きさだろうに、図体のでかい男二人に挟まれた今エレベーター並みに窮屈だ。
いっそ満員電車かもしれない。