マニアック

お兄ちゃんだって思ってたのに

「梨々香?」

「……ッ」

呼ばれて、はっと目を見開く。

自分の置かれた状況がわからず、梨々香は視線を四方に巡らせようとして、真上から見下ろしている空也と目が合った。

「大丈夫?」

「……う、うん」

「声が枯れているね。なにか飲み物を取ってくるよ」

ドアを開けてキッチンに向かう空也を見やり、梨々香は重い体を再びベッドに預けた。

カーテンから漏れる穏やかな日差し。

遠く、表通りから通行人の明るい声が響く。

「いま何時?」

「12時を回ったところだよ」

梨々香に答えながら、空也はベッドに横たわっていた梨々香の肩を抱いて座らせた。

トレーの上でガラスのコップと、林檎が、ぶつかり音を立てる。

「これ……」

「いい子にできたら、林檎を剥いて差し上げる約束をしたでしょう?」

くすりと喉奥で笑って、空也が顔を近付けてくる。

意地悪く金穂の瞳を眇め、囁いた。

「それともセックスに夢中になって忘れちゃった?」

「な、なに言ってんの!?っていうか、そ、そんな、悪びれもしないで…っ!合意じゃなかったのに!」

怒りと羞恥で、梨々香は顔を真っ赤にして空也を睨む。

けれど同時に身体が甘くときめいて、彼の残滓ざんさいが太股を伝っていった。

「好きですよ、梨々香。君も僕が、好きでしょう」

すがるように問われて、梨々香はぐっと言葉に詰まる。

ばっさり切り捨て避難するには、空也に情がわきすぎていた。

「わ、私は…お兄ちゃんだと思ってたの」

「知ってますよ」

空也は頷き、そして梨々香の手を握って首を傾げた。

「――今は?」

「今は……」

あんなふうに体を暴かれたら、兄だなんて思えるはずがない。

無理やり抱かれたはずなのに、あんなに喘いであんなに絶頂してしまったら、嫌がっていたと言っても説得力もない。

「お、男の人――って思って、ます」

「よかった。じゃあ…僕と付き合ってくれるよね?」

ほだされていると分かっていたが、その問いに、梨々香はイエスと応えることしかできなかった。

――本当は最初っから男の人として好きだったのかもしれない。

そう錯覚させられてしまうほどには、梨々香はたしかに空也が好きだったので、きっと問題はない。

- FIN -

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