マニアック

おとな動物園

飲食店にしてはくらめの照明の店内。

 半個室が並ぶそこは、おしゃれな居酒屋やキャバクラに似た雰囲気。

 それらと大きく違っているのは……

 店内にいる女の子達が、みんな動物のコスプレをしているということ。

「こんばんは! お仕事お疲れ様でした! 会えない間、寂しかったんですよ?」

 私、菜乃なのは指名を受けてロビーへ向かう。

 自然と出た甘い声はあながち演技でもなくて……腕をとったその人、日坂ひさかさんに会いたかったのは本当だったりする。

「ごめんねー、菜乃ちゃん。寂しくさせて……今日はラストまでいられるから、いっぱい仲良くしようね」

 いかにもサラリーマン然とした日坂さんは町ですれ違っても気が付かないような、いわゆる普通の人。

 でも、このお店。

『おとな動物園★はっぴーあにまる』

では私イチオシの飼育員(お客)さんなのだ。

「嬉しいなぁ、日坂さん優しくて大好き!」

 早く席に誘導したくて日坂さんの腕をとると、その後ろに目を泳がせている男の人がいた。

……日坂さんに夢中で気が付かなかった。

「ば、ばにーがる?」

 目を丸くさせるその人は、頭のてっぺんからつま先まで私の姿に視線を送る。

 私のウサギコスは普通のバニーガールのようなレオタードタイプではなくて、胸元をふわふわのファーで作ったビキニに同じ素材のホットパンツ。

 同色のクリーム色のカチューシャはたれ耳となっている。

 いわゆるセクシーなバニーガールではなくて、かわいい子ウサギをイメージした衣装なんだけれど……胸元は谷間がしっかり協調される布面積で、ホットパンツは中のショーツが見えちゃう。

 かなりえっちなデザインだ。

「あぁ。こいつ、僕の部下の梅原。慣れるまでボックスで同じ席について貰おうと思うんだけれど、いいかな」

「へぇー! 新規の方なんだね! はじめまして、ウサギの菜乃です! 種類はロップイヤーだよー。詳しいことはお席で説明するね!」

 私はカーテンで仕切られた半個室の空間に二人を案内する。

 日坂さんは慣れた様子で。その後ろの梅原うめはらさんはきょろきょろしていた。

(んー、日坂さんが三十五歳って言ってたから……梅原さんは三十くらいかな?)

 梅原さんは改めて観察すると結構ガタイがいい。

 首も太いし、なんかスポーツをしていた人っぽいな……。

 にこにこと愛想を浮かべつつも、私はキャバ嬢時代の観察眼を駆使する。

 こういう距離の近い接客業では地雷を踏まないようにすることがとても大事なのだ。

 私はドリンクのオーダーを先に済ませ、二人の間に座った。

「梅原さん、ここのことどれくらい説明されたの?」

「え、えーと……楽しいところ、としか……」

「えぇー! 日坂さん説明雑だよぉ」

 ぷくっと膨れてみせると、日坂さんは

「ごめんごめん」

と悪気がなさそうに私の頭を撫でた。

「ここは、その、バニーガールのお店なんですか?」

 梅原さんは私のコスを見て、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 うーん、初心な反応。女の子慣れしていないのかな?

「ううん。ここは『大人のどうぶえん』なの。

いろんなアニマルにコスプレした女の子といちゃいちゃするお店だよ。

梅原さんはどんな動物が好き?」

「え! えぇ……と、ね、猫とか?」

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