「僕も圭太さんみたいに積極的になれたらなぁ」
「何言ってるの?馬鹿じゃない?こっちはどれだけ辛かったか」
そう言って杏奈は、わざとらしく眉間にシワを寄せ、頬を膨らませた。
幸太郎は笑った。
杏奈も笑った。
(何でなんだろう?あんなに酷いことされて、あんなに辛かったのに…普通ならきっと精神をおかしくしてるだろうに…それなのになんで私は笑ってるんだろう?)
杏奈は幸太郎の顔をじっくりと見た。
今までは何とも思わなかった彼の顔は、以外に端正で、美しかった。
それに気付くと、急に恥ずかしくなって、思わず頬を染めた。
それでも彼の顔を羨望の目で眺めた。
(いやいやいや、この男には彼女が居るんだから、駄目よ)
「実は…」
幸太郎は笑うのをやめて、突然神妙な面持ちで喋り出した。
「セックスが下手なんですよ、僕。一昨日も、彼女とセックスをして、上手くできなくて、途中で彼女が怒っちゃって…今まで一度も最後まで行ったことがないんですよね」
杏奈は後輩の、しかも先程惚れてしまった後輩のこんな話を、果たしてどのような態度で聞いて、意見を言えば良いのか、わからなかった。
しかし何か喋らないとと思って、咄嗟にこんな事を言ってしまった。
………
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「私と練習する?」
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幸太郎は暫く呆然と杏奈の顔を見つめた。
杏奈も、自分が今何を言ったのか、全くわからなかった。只激しい恥辱の念を覚えた。
杏奈は顔を赤く染めて、両手をもみしだきながら、まるで黙っていれば何とかなるだろうと期待しているかのように、じっと枯れ葉の転がる地面を見ていた。
公園の入口辺りから、子供の声が聞こえる。
………
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風が吹いて、ベンチの上では2人が抱き合い接吻をしていた。
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杏奈の閉じた目から、涙が流れている。