彼は前屈みに泣いている私に体を寄せると、片腕で抱擁した。
しかし私はそれを払いのけて、腰を上げると寝室に逃げ込んだ。
私はベッドに腰掛けて部屋の隅の方をぼんやりと見つめた。
それから不図、目覚し時計を見ると針は13時34分を指していた。
急に激しい空腹を覚えた。
朝ご飯を食べてから今までまだ何も食べていなかった。
しかし安易に外に出る事は出来なかった。
今彼は何を思っているのだろうか?
お腹が鳴った。
枕の上の窓から熱い日光が容赦なく部屋を燃やしていた。
額から首から脇から汗がドッと流れ出す。
私は腰を上げて鏡台の前に座った。
目元が赤くなっていた。
皮膚が汗で光沢を帯びていた。
矢庭にドアがノックされた。
私はその方を黙って睨みつけた。
少し間があって、再びトントンとノックされた。
それでも私は何も言わずドアを凝視していた。
カチャッ、ドアノブが回って、ゆっくりとドアが開いた。
そして彼は申し訳なさそうな顔をしながら、それでいて動作は堂々としながら、中に入って来た。
私は彼の目を睨みつけた。が、内心から彼を憎んではいなかった。嬉しかった。
しかし自分の今までの早とちりで軽薄な行動から後が退けなくなってしまっていて、それで私は一種の自暴自棄になっていた。
どうして彼に、彼に対する自分の好意を伝えれば良いのかわからなかった。
全く頭がおかしくなっていた。
彼は16歳とは思えぬような力強い厳然たる眼差しで私の滅茶苦茶な虚しい目を見つめた。
お願い、謝らないで。あたしが悪いの。叱って。こんなあたしを。
「井上さん、僕はあなたを叱る事は出来ません。ただ、自分に素直になれば、それでいいんです」
そう言って彼はベッドに座った。
そして私を
その間、私と彼はそれぞれの目をじっと見つめていた。
いよいよ私の目の前に彼が来ると、私は影に覆われた彼の端正な顔を眺めた。
そして影の中で微かに笑みが溢れたと思うと、俄に彼は自分の大きな手を私の肩に乗せた。
「小百合さん、綺麗ですよ」
彼は私の肩に乗せた手を滑らかな軌道で私の後ろに回すと、上から押し付けるようにキスをした。
今度は舌は使わず、唇と唇だけで戯れた。
間もなく彼は顔を上げて、私の顔を見つめながら、笑っていた。
………
………
「小百合、愛してる。ほら、目を瞑って」
「うん」
「目を瞑った顔、可愛いよ」
「ちょっと恥ずかしいよ、そんなにジロジロ見ないで」
「別に良いじゃん、可愛いんだからさ。恥ずかしがらなくたって大丈夫だよ。そう?わかったよ、じゃあ俺も目を瞑るから、ほら、これで良いだろ、うん、んん、ん、中々柔らかいな、小百合」
「健太の口も柔らかいよ」
「そう?じゃあもう1回、、、」