問題は私はセックスでイったことがないということ。
いやいやいやそれ以前に相手は誰だ――?
処理しきれない情報量。
バクバクと焦る心臓。
目覚める前何をしていたんだ私は、と、とっちらかる思考。
落ち着け、パニックを起こすな……。
「やっと起きた」
呆れた、とばかりのうんざりしたような声に恐る恐る目をやる。
「えっと、冬水君?」
「……何」
腕を組み、壁に寄りかかるイケメンが不機嫌丸出しの表情でこちらを睨んでいる。
高校時代の同級生、
瞬時に彼にまつわる、苦い思い出が込み上げて、血の気が引き――
「あ、詰んだ」
思わず出た言葉は覆水盆に返らず。
ただでさえ無音の空間に、鉛のような沈黙が降りる。
(本当に、思ったこと口に出しちゃう癖どうにかしたい……)
きっと私は青ざめて、でも取り繕うようにへらっと笑ってしまう。
冬水君は目を見開いた後、はっと鼻で笑い
「こっちのセリフ」
と続けた。
「ですよねー……あはは……」
「チッ」
(うわ、舌打ちされた。……久々だ)
殺伐とした空気に泣きそうになる。
いや、実はちょっぴり泣いた。
誤魔化すつもりで部屋をぐるりと内見してみる。
まず部屋が8畳くらい。
部屋の中央にドデカいベット。
少し離れたところにミニサイズの冷蔵庫。
あ、ペットボトルが入ってる。
水と……スポドリか。
パーテーションみたいなうっすいカーテンの向こうに、トイレ。
うわ、これ音とか部屋中に聞こえちゃう奴。
そして壁に埋め込まれた液晶パネルと……扉の意味をなさない扉。
「言っとくけれど、開かないよ。何度も試した。君が寝ている間にね」
「あ、はい……なんかごめん……?」
「はぁ……そのとりあえず謝っておこうってやつ、まだ治せていないの? 本当に君は変わらないね」
君も高校の頃から一貫して変わっていないようで、さすがにちょっと傷ついてるよ、冬水君。
まぁ2年じゃ人は変わらんよね。
きっと君は20年経っても私のことが嫌いなんだろうけど。
『
大して目立つ生徒でもない私は、当時何故か名前だけが一人歩きした。
理由は、上記の噂が出回ったから。
……まぁ噂というか、事実なんだけど。
気が利いて、頭の回転が早くて、気さく。
運動神経抜群で頭脳明晰で顔立ちも整っている。
嘘だろって言うくらい出来すぎている。
それが冬水昴という男の子だった。