恋のはじまり

手段を選ぶ余裕はない

「い、痛かった……?」

「……違う」

「えっと、じゃあ、泣くほど嫌だった……とか?」

 完全に青ざめた琢磨は小さく縮こまっていて、今にも土下座しそうなほど肩を落としている。

「違う、違うよ、ばかぁ」

「ばっ……バカバカ言うなよ……! 嫌、バカです。バカなんでマジで何で泣かせたかわかりません。
教えてください。そんで、できれば泣き止んで……? ちょっと俺、マジで折本に泣かれるのダメだコレ。心臓痛い。痛くて死にそう」

 ぐすぐすと泣く私を起き上がらせ、対面する形で抱きしめられて……

「アッ! もしかしてハグもダメ……?」と狼狽うろたえている。

なんかもう……アホすぎて可愛い。

「……私と琢磨は友達でしょ?」

「……あ、はい」

「それなのに、こんな恋人にするみたいなエッチしないで」

「え、なんで?!」

 がばっと私を引き剥がした琢磨は心底理解できないという顔をしている。

「こういうの、嫌だった……? でも俺好きな子相手に痛めつける系エッチ無理なんだけど……」

「……は?」

「苦しいのとかも可哀想になっちゃって無理……。いや、でも折本がしたいなら折衷案せっちゅうあん緊縛きんばくくらいなら……」

「待って。マジで待って」

「え、じゃあ何ならいいの」

「友達同士はセックスしないって言いたいの! 琢磨にとっては軽いノリかもしれないけど……こんなセックス、好きになっちゃう……」

「うん、そりゃそれが狙いだから」

「んんん?」

「おー、すげぇな。俺たちめちゃくちゃ話が合うのに今日はぜんっぜん噛み合わねぇ。肝心なところでダメダメじゃん」

 琢磨はなんだかちょっと不満そうに唇を尖らせる。
………

………
「……はっきり言わなきゃ、わかんない?」

「わからない、です。バカなので」

「ん、俺はずっと口説いてるんだよ、折本のこと。お前に俺にハマって欲しくて、えっちも張り切っちゃったの。
いっぱい感じてくれるからてっきり折本も口説かれてんのわかってくれると思って調子乗って押しまくっちゃったわ……怖かった?」

 ぽかんと、口を開けるしかない。

 口説いてるって、え?

 婚約破棄された私を?

 婚約解消した……他の人と結婚しようとしていた琢磨が?

 私のこと好き?

 ていうか……落とす気でえっちに持ち込むって……

「わからない。琢磨のこと、全然わからない……」

「まぁ、確かに早急すぎるよな」

 ちょっと休憩しながら話そうぜ、と琢磨は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。

私に渡す前に、パキリと蓋を開けてくれた。

――ほんっと、こういうところ凄くスマートなんだよなぁ。元婚約者と違って。

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