「天野?天野じゃないか?」
「えっ……、あ、えぇ?!加藤さん?!」
思わず噴き出してしまいそうになった。
聞けば、彼も一人で飲んでいた所だったらしい。
「かっ……加藤さんでも、こうやって、一人で飲むことなんて、あるんですね」
私はとても緊張していた。
なんと言っても、ずっと憧れていた人が自分の隣にいて、お酒を
加藤も少し酔っているようで、緊張を隠せない私の傍ら、色んな話しを聞かせてくれた。
ここが居酒屋で良かった、と心底思った。
口下手な私でも、お酒のせいにして、思っている事も素直に話す事ができる。
彼との時間は、久々に楽しいと思える時間となった。
嬉しくて、嬉しくて、ただ、この時間がずっと続けばと願った。
だが、空しくも終わりの時間というのは存在する。
店主が、ラストオーダーを聞きに来た。
「えぇっと……私はウーロン杯で……」
もうこの一杯で彼との時間が終わってしまう。
それが余りにも、寂しくて、辛くて、痛かった。
「天野?」
俯く私に、彼が心配そうな声をかける。
きっと素面の私ではできない事が、今ならできる。
そう思って、彼の腕に抱きついた。
「加藤さん……帰りたくない、です」
「…………」
見上げてみれば、彼は呆気にとられたような顔をしている。
なんだか自分が恥ずかしいことをしているような気持ちになって、また視線を床へ落とした。
「……うち、近くだから。来るか?」
思わぬ言葉に、暫く動くことができずにいた。
加藤さんの部屋に、私が?今から?
「……い、行きます!」
気付けばそう、口にしていた。