「あれ?ゆな??」
悠奈は「ゆうな」ではなく「ゆな」と呼ぶのはこの世界でたった一人だけ。
良太だ。
「え・・・」
「ゆな!元気だった!?」
「りょ・・・」
良太の後ろには背の低い代わりに頑張ってヒールの高い靴を履いている彼女がいた。
「良太兄ちゃん・・・あ、れ?そっか札幌・・・・」
あまりにも突然すぎでうまく声が続かない。
彼女は「早く帰ろう」とわめいている。
良太だ。
生の良太だ。
「わかったよ。ゆな、連絡先教えて」
「うん」
「おし、じゃ、俺から連絡するな!!」
まるで嵐だった。
この瞬間を境になんだか亨に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
胸は…気持ちは…心は…数分あった良太に奪われてしまったからだ。
それをなんとなくで察した亨は、見ないふりをしていつも通り、いやいつも以上に愛情を注ぐ。
「悠奈。帰ろう」
「うん」
二人は歩いていた。
亨から手をつなごうと差し出すが、うつむいたままになって、立ち止まってしまう。
亨は横断歩道を渡り終え、横断歩道の途中の悠奈に声をかけた。
「悠奈。おいで」
ここで行ったら悠奈はもう戻れない。
けれども亨を好きな気持ちがあるからどうもできない。
次第に歩道のランプは点滅し始める。
「悠奈、こいよ!!」
迎えに行こうと亨が足を出すと、その後ろから違う男性が悠奈の手を握って歩道に動かした。
「ゆな!大丈夫か!?」
亨には最悪なことに、良太だった。
「お、にいちゃ・・」
「おいテメー。なんでゆなを・・・」
「あんたが悠奈の心にいる兄貴か」
「やめて亨!」
興奮状態の亨は収まることなく良太の右ほほをストレートで殴った。
「お前がいるから悠奈は・・」
「って・・・ぇ」
悠奈は思わず殴られてふらつきながら立っている良太に駆け寄る。
我に返った亨が見たのは、いつも自分には向けられていない優しい悠奈の表情。