妻が‥‥何者かに殺害されたという。
遺体には複数の切り傷があり、おそらく顔見知りの犯行だろうと警察は言っていた。
妻は人当りも良ければ、協調性も持ち合わせているので顔見知りとは考えられない。
けど妻には秘密があった。
それは妻の家族の問題だ。
俺は結婚する際に挨拶に行こうと言った。
しかし妻は笑って
「家族はあたしはいないから。両親は亡くなってるの」
と言っていたことを昨日のように思い出す。
そろそろ、俺ももう生きる気力がない。
妻を失って、これから俺はどうすればいいんだ。
そう、思っていたころに光がやってきた。
それは‥‥‥
「初めまして!
妻と顔がまるでそっくりの男が俺の会社に入社してきた。
似すぎで俺は泣きそうになった。
………
………
「おぉイケメンが入ってきたかー。俺仕事とられるじゃん!」
「俺も成績落ちるわー」
同僚たちは歓迎して盛り上がっている。
そんな中俺は、必死に涙をこらえて本村という男性から目が離せなくなっていた。
「ん-?おい、どうしたんだよ
課長に呼ばれて俺は驚いて変な声を上げる。
「へ!?」
「変に驚いて‥‥成績には十分気をつけろよー」
「あ‥‥‥はい」
その日から地獄だった。
妻とうり二つの本村さんが隣のデスクに配属されたから。
声もどこか似ていた。
そうだ、妻が俺を怒鳴った時の低い声が似ているんだ。
つまり骨格が同じなのだろう。
………
………
「‥‥‥あの、平井さん?」
「‥‥‥」
「平井さん」
俺は名前を呼ばれてハッと我に返った。
「あ、はい」
「平井さんは家庭持ちですか?」
「‥‥‥なぜそう聞くんだ」
「いえ、なんとなくです。なんだか家庭で悩んでいそうだからです」
「悩みなんかないですよ、俺回ってきます。じゃ」
俺は無理やりその場から離れた。
「‥‥‥‥‥‥」
………
………
「あー、本村。」
「あ、はい」
「俺は専務の大倉だ。よろしくな」
「こちらこそ!」
「‥‥あいつさ、平井は最近奥さん亡くしてさ」
「どんな方なんですか?」
「平凡な凡人だな。仕事に関してはプロフェッショナルだったなー」
「だった‥‥‥?」
「ちょいと前に大好きな奥さんが他界してな。あいつもまだ立ち直れてないみたいだな」
「へー‥‥‥」