恋のはじまり

わからせっくすは漫画だけの話だと思ってた

蕩けそうな笑みで、幸せそうに頬を撫でて……角度を変えて深くなる。

ちがう、そうじゃない。

もごもごと、唇を塞がれたまま訴えても……

なんだかもう、それはそれでいいか、なんて、諦めてしまう自分もいる。

だって

経緯は納得できなくても、九條先輩とこういう関係を望んだのは確かなことだから。

­――とはいえ

(これは展開が早すぎるのでは……?)

 

「ふ、あ……せんぱ、先輩!」

「ん、なに?」

「あ、の、これは……今日致す感じの展開ですかね……?」

手を繋ぐ、というか、逃げないように手首を拘束されて、ぐいぐいと引っ張られて、あれよあれよと招かれた先輩の一人暮らし先……まごうことなき男の部屋。

その寝室の、ベッドの上で、押し倒されているこの構図。

何度も唇を重ねながら、服の裾に忍ぶ手が、下着の方へ目指して……

私の確認は火を見るよりも明らかな愚問ぐもんだ。

 
現に、先輩は

「はぁ?」

鳴りを潜めていたはずの、あの柄の悪いにらめ付ける視線で声を低くする。

(あ……)

美形のひと睨みは、そぅっと背中を氷で撫でられるようにぞくぞくと恐怖をあおられるのに……なぜだろう。

下腹部の奥が甘く痺れるように、じわりと快楽が伝播でんぱする。

先輩の、無邪気でやんちゃっぽい素顔。

いつぶりだろう……。

でも、こちらだって負けていられない。

「は、じめてなんですよ! 私は! 処女をナメないでください?!」

「いや舐めるけど」

「バカなの?!」

アホか、と続けようにも、更に唇を塞がれて……指がつぅっと、胸、へそ鼠蹊部そけいぶをなぞり、内腿うちももをくすぐった。

一際柔らかい部位をすりすりと撫でられるもどかしさは、ぞわぞわする一方で……しっかりと手つきがえっちだ。

「あのさ……俺も初めてだから」

特別良い声で、耳をくすぐるように触れた唇が­――今なんて言った?

「極力優しくしてやりたいけど、榊意地悪だからなー。どーしよっかなー」

「私がいつ……いや、もうそこはいいや……あの、うそ、ですよね?」

「ヤリちんの俺のが好み? 1時間あればその辺で童貞を捨てて……」

「やめて」

「はいはい……やっぱ榊の中の俺って女たらしが解釈に合うん?」

「あ、いや、その、えーと……正直、はい……二桁くらい食い散らかしているのかと……。で、でももちろんヤリち……じゃなくて、経験豊富なほうがいいとか絶対ないです」

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