イタリア人男性はよくナンパするという有名なステレオタイプは知っていたが、アジア人だとは分かってもどこの国から来たのかわからないので知ってる挨拶を全部言ってみました!
と言うように得意げな顔をする彼が可愛く思えてミカはちょっとナンパされてみようと思い立ち「こんにちは」と返してみた。
彼はパァ、と太陽の様な笑顔を浮かべると「ジャッポーネ!So!ソニー!トヨタ!」と日本を知っているよとアピールしてきた。
彼は少しイタリア訛りの英語で「英語、分かる?」と聞いてくる。
「はい、少し」
「良かった!俺はロレンツォ!君は?旅行者?1人?」
「はい、1人で旅行で来ていて…私はミカ、です」
観光地なら英語で通じると聞いて少しだけでも勉強してきたかいが有った、とミカはそっと胸を撫で下ろす。
ロレンツォはこの付近に住んでいて、今日は仕事が休みだから散歩をしていたという。
「1人だなんて!恋人は来なかったの?」
「恋人…いません」
否が応にも前の彼氏の事を思い出し目を伏せたミカだが、すぐにその暗い表情は笑顔にかわることになる。
「君みたいな魅力的な女性に恋人がいないなんて、日本の男はおかしいよ!それに1人じゃ危ないよ、俺が一緒にいてあげるよ、朝までね!」
身振り手振りで明るくユーモアを飛ばす彼についフフ、と吹き出しながらあてもなく一緒に歩くことにした。
「さっきから君のことを見ていたんだ、凄く綺麗だなってね!あの階段を降りてくる姿なんてまるで映画かと思ったよ!」
この美しい天使は俺に会うために天国から降りてきたのかな?
なんて歯の浮くようなセリフを言いながら彼は肩に手を回し、空いた手で私の手を握っている。
流れるように鮮やかな動きに内心関心しつつ、軽いなぁと呆れ半分に思う自分もいた。
「ええと、ロレンツォ、今どこに向かってるの?」
「そうだねぇ…キスしてくれたら教えるよ」
「…えーっと……」
「出来ないでしょ?恥ずかしがりな君が好き」