恋のはじまり

私の部屋に誰かいる

 最近、何かがおかしい。

 私、莉乃りのはベットの上で布団に包まり、うまく寝付けずにいる。

 大学を卒業後、都内で就職して、一人暮らしも三年目。

 仕事にも慣れ、私生活はそこそこ順調。

彼氏はいないけど、友達も多いし別に焦りもない。

日々生ぬるく生きてる私には深刻な悩みなんて縁がなかったはずなのに。
………

………

………
「なーんか、変なんだよなぁ……」

 住み慣れた部屋の居心地がどことなく……まるで誰かに出入りされたかのような、知らない空気を感じるのだ。

 それは、いつだって夜に感じる。

 だから寝つきが悪くなり、お守りがわりの安眠効果のあるアロマが手放せない。

 これがあるとストンと眠れるのだ。

 ただ、アロマに頼っても、なんとなく眠りが浅いというか、

起きるとぐったり疲れていて……眠りの質が悪いみたい。

「うー……もしかして心霊現象……? 三年間何もなかったのに、今更?」

 眠れずにゴロゴロとベットを転がっていたが、相変わらず遠い睡魔。

今日もアロマに頼るしかなさそうだ。

 ため息をついたとき、はた、とあることにひらめく。

 眠れないのなら、眠らなければ良いのでは? と。

………

………

………

「あぁ、それで俺が呼ばれたの」

 数分もしないうちに我が家の玄関をくぐったのは、高校からの同級生、伊織いおり

 大学で切れる縁かと思えば、就職先はニアミスの距離だし、引越し先のアパートも一緒。

 下手に同性と付き合うより気兼ねない距離でいられる伊織は私にとって貴重な男友達だ。

 ちなみに「眠れるアロマ」をくれたのもこの伊織で、朴念仁ぼくねんじんに見せかけて、なんやかんや頼りになる、気の利く人だったりする。

 

「心霊現象ねぇ……莉乃、霊感あったの?」

「カケラもない、と思う。でもそれ以外考えられないもん。なんか、言葉で説明するのも難しいくらいの違和感だし……」

「へぇー……例えば? 何か動いていたり無くなったりしてたの?」

「そういうのはない、と思う。なんかこう、部屋に入った時の匂いが、なんとなーく来客の後みたいな感じがするの。でも確信が持てなくて……」

「なんだ、その程度か」

「なによー! 人が真剣に悩んでいるのに!」

「俺はてっきり……いや、なんでもない」
………

………
 伊織はふむ、と部屋を見渡し

「仮に幽霊だとしても、実害がないならいいやつなんじゃね?」

とのんびりつぶやいた

「えぇー……一緒に住むんだったら家賃払って欲しいんですけどー」

「払えばいいのかよ!」

 伊織は呆れた様子だった。

危機感ゼロかよ、と頭を抱えている。

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