「また振られたーっ!!!」
うわああ、と声を上げて泣く麻美子(まみこ)の姿を、優馬(ゆうま)は呆れた表情で眺めていた。
ボロボロと零れ落ちる涙が頬を伝い、そのまま首を通って麻美子の着ているスウェットへと吸い込まれていく。
茶色のセミロングの髪はまっすぐで、前髪はセンターでわけられている。
はっきりした顔立ちにナチュラルなメイクがほどこされていたが、それも涙でぐちゃぐちゃになっている。
ワンルームのアパートで、絨毯の上で座り込んで泣き続ける姿をベッドの上から眺めているのは、麻美子の幼馴染、中村優馬(なかむらゆうま)だ。
少し長めの髪はワックスで整えてあり、読者モデルとして雑誌にうつっていても全く違和感のないような――そんな男性だった。
………
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「今回はどんだけ?付き合って半年?」
「うう……四か月だよお……魔の三か月目を超えたと思ったのにい……」
「相変わらず短いな」
優馬のその言葉に、麻美子の瞳から大粒の涙がぼろぼろと溢れ出す。
止まらない涙がどんどん伝い、黒の大き目のスウェットはびちょびちょだった。
「おい、俺のスウェット汚すなよ」
「無理だよお……」
………
………
麻美子と優馬は、隣同士の家に住む幼馴染だ。
同じ幼稚園、小学校、中学と通い、高校で離れたが、結局社会人になった今もまだ仲は続いている。
お互いが実家を出て隣同士ではなくなった今も、麻美子はこうして優馬の部屋を訪れているのだ。
麻美子にとって唯一ともいえる男友達であり、幼いころから自分を知っている安心できる相手だ。
麻美子に恋人がいないときはちょくちょく会い、恋人が出来れば連絡をしなくなる――そして、振られたらこうして優馬に慰めてもらいに来る。
………
………
「辛いよお……なんでいっつもこうなっちゃうんだろう……今回はうまくいくって思ってたのにい……」
失恋は何度経験しても辛くて仕方がない。
今回の恋人は、合コンで出会った年上の男性だった。
面倒見の良い彼のやさしさに甘え、付き合ってから段々わがままになっていった麻美子に愛想をつかした彼が別れを切り出したのだった。
「いっつも私のわがまま聞いてくれたからっ、こんな風になるなんてわかんなかったよお……」
「ちょっとくらいなら可愛くてもお前のわがままって本当にわがままだからな」
「そんなこと言わないでよおお……っ」
優馬は少しも優しくない。
こんな時くらいもっと寄り添ってくれてもいいものなのに、こうして突き放したようなことばかり言う。
それでもいつも彼の元に泣きつくのは、本当は彼が優しいとよく知っているからだ。
「はあ、本当にいつも学習しないよなお前は……ほら、ホットミルク作ってやるから泣きやめって」
「砂糖いれてね……」
「そういうとこだろ」
やれやれ、と口では文句を言いながらも、キッチンに移動した優馬は言われた通りミルクに砂糖を入れてくれる。
レンジで温め、麻美子の好きなお菓子を付けて、それをそっと差し出してくれた。
「ありがとう……」
「ん、それ飲んだらもう泣くなよ、スウェット汚れるし」
「あったかくて美味しい……」
ホットミルクを一口すすると、甘くて身体から力が抜けていく。
じわ、と広がる暖かさに心がほぐれて、痛くて仕方がなかった胸が少しずつ楽になっていくのを感じた。
この失恋が何回目なのか、もう麻美子自身もわからない。
最初は向こうから寄ってきたはずなのに、麻美子が素を出し始めると相手から逃げていってしまうのだ。