深い静かな夏の晩の出来事である。
ある公園の汚いベンチに一人の女性が座っていた。
化粧はしておらず、服装も、何やら変なマークのTシャツと裾が白く縁取られた赤い短パンで、決して外出するような出で立ちではなかった。
女性は暗い顔をして、街灯の明かりと暗闇の境目の、ぼんやりした所を、じっと見詰めている。
それはひどく
明暗の境目を
斜め上を見上げると、黒々と
その周りを灰色の雲がゆらゆらと泳いでいる。
女性の大きな瞳は、月明かりに美しく輝いていた。
………
………
………
突然雨が降り出した。
雨脚は太く長く、それが激しい音を立てて地面を叩きつける。
雨が降ってから四阿に避難するまで、それ程の時間は経っていなかったのに、峰子の体はビチョビチョに濡れて、衣服が肌にへばりつき、重たくなっていた。
ブラジャーがTシャツから浮き出る。
峰子は四阿の椅子に腰を掛けると、額にくっつく濡れた前髪を掻き上げて、雨脚の一条一条を眺めていた。
(もうっ!最悪!雨が降るなんて知らないし、どうしよう…)
峰子は辺りを見回した。
ここに一人で居るのが、とても怖かった。
帰ろうかしら?そう思って、直ぐにその考えを頭から払拭するように首を振った。
(絶対にイヤよ、圭人が謝るまでは、絶対に帰らないんだから)
しかし雨音は、峰子の恐怖心を煽るように、更に激しくなる。
不図、公園の入口付近に傘を差した人間が突っ立っていた。
それは四阿の方を見て、何か確信すると、峰子の方に歩を進めた。
(ちょっと待ってよ…何…)
峰子は逃げようと思った。
が、体が動かない。
金縛りだ。
峰子は恐怖に顔を強張らせて、
間もなく”傘”は四阿に入って来て、峰子の目の前が明るくなった。
峰子は眩しさで顔を反らして横目に明かりの方を見ると、
「おい、帰るぞ」