「
これは、深夜1時に帰宅した母の声。
いつもあたしが寝ているからと、お酒に酔っぱらった時はマネージャーに送ってもらっているのに、
なぜかこの日は違った。
おかしいなぁ、と思って部屋で勉強していたところを中断し、めんどくさいが母にこたえる。
「はいはい。ちょっと待ってねーっと」
「ゆっきーー‥‥‥」
玄関に着くとべろべろに酔っぱらってしまっている母がいた。
「お母さん。今日はマネージャーに送ってもらわなかったの?」
荷物を拾い上げて、靴を脱がせる。
あたしの暖かい手が母の足首に触れて、いきなり抱き着いてきた。
「あのねー、雪。あのね、お父さんが出来るのってどう思う?」
「‥‥‥へ?」
「好きな人ができたの」
「おぉ、まじか」
素直な反応。
そっか。お母さんも好きな人できたのか。
いままでずっと一人だから心配だったけど、カバーしてくれる人ができたのか。
「‥‥それはそれは、喜ばしいことだのぉ」
「ほんと!?」
「はいはい。じゃ、詳しく聞くから待っててね。水持ってくるから」
あたしはその日、男性にのろける母を美人な母なんだなぁ、と再認識していた。
‥‥‥
‥‥‥
‥‥‥
母の告白から一週間が経過する頃、いつも通りに帰宅をすると鍵が開いていた。
鍵のかけ忘れかと驚いて慌てて中に入った。
玄関先には見知らぬ靴があった。
男性用の黒塗りで、革の靴。
母が義父を連れてきたのかもしれない、と思って靴を脱ぎ、
明かりのあるリビングに入っていった。