「笹尾さんはどの駅で降りるんですか?」
「〇〇駅」
私の降りる駅の2つ手前だった。
3分後には隣から彼がいなくなる。
まだ彼はそばにいるのに、数分後のことを考えると気持ちが沈んだ。
彼は自分から話そうとしないので、私が話さなければ車内は沈黙したまま。
無言でいるうちに、彼が降りる駅に停車した。
ドアが開いて数秒が経っても彼は座ったままだった。
「笹尾さん。降りる駅…」
ほんのりと彼の顔に笑みが浮かんだ。
何か少しくらい期待してもいいのだろうか。
再び電車は動き出し、数分後には私が降りる駅に到着した。
私が降りると、やっぱり彼も降りた。
「これからどこかへ行くんですか」
「送るよ」
「ありがとうございます…」
隣で彼が歩いている。
私より15cmほど背が高くて、隣にいると安心感があるのも以前と変わらない。
できるだけ遅く歩いて、自宅に着いてしまわないように努めた。
「笹尾さんっておいくつなんですか」
「30。伊原さんは21くらい?」
「惜しい、22です」
「若いね」
もうひとつ聞きたいことがあるけれど、それを聞く勇気はない。
年齢だけはずっと知りたかったから、ついに知ることができて良かった。
「家、このあたりじゃないの?」
「もう少し…先です」
自宅に近づくにつれて、また何も話せなくなる。
連絡先も交換することなく終わってしまう、そんな気がした。
もっとずっと彼のそばにいたくて堪らない。
「もう通り過ぎたでしょ」
「そう思いますか…」
「戻らないの?」
彼に全部見透かされていた。
50メートルほど行き過ぎた道を再びたどることにした。
さっきまではそんなことがなかったのに、今は歩くたびに彼の肩や手が私のそれに当たる。
「私が家に着いたら…帰っちゃうんですよね」
「ん?」
「笹尾さんに帰ってほしくなくて…いっしょにいたいです…」
気付いたときには欲望が口から洩れていた。
私のわがままを聞いた彼の表情はいつもと変わらなかった。
どんな答えが返ってくるのだろう。
何度読んでもエッチな気分になれるお気に入りストーリーです。笹尾さんファン。今度ちゃんと言ってほしい!続きがあると嬉しいです。