マニアック

もう、戻れない

軽い気持ちで、なんとなく。

そんな頭の悪い言い訳を、まさか自分がすることになるなんて思ってもいなかった。

私、篠塚友加里しのづかゆかりは人に名前を言えば尊敬されるレベルの大学に在学していて、他人から外見を評価されることも少なくない。

誰の目から見ても「勝ち組っぽい」と思わせるくらいの人生を送ってきた。

それなのに

………

………

………

「ゆーりちゃん!また手が下りてきちゃってるよ?ちゃんとポーズ決めてくれなきゃ」

眼前にいる男……七原郁也ななはらふみやの存在が、私の人生プランをめちゃくちゃにした。

「……っ!」

羞恥心に歯を食いしばる。

私は今、胸の頂だけを薄い布で編んだような……乳房がこぼれてしまいそうなブラに、クロッチを切り抜いた下着と呼べないようなそれを穿いている。

前張りされているから、性器は見られずにすんでいるけれど、プリーツスカートをまくり、そこを強調するようなポーズをとらされていた。

「これだってちゃんと仕事なんだよ?いやらしいところを見せてくれなきゃ売れないじゃん」

カメラのファインダー越しに舐るような視線

極端に小さい前張りは、私が動くたびに剥がれてしまいそうだ。

「もう、いい加減にして!」

気の強い美人と評される私が睨めば、痩せたヲタク風の男は大概ビビる。

でも、七原にそれは通じない。

「は?何言ってんの?友加里ちゃんがそんな態度だと、俺約束守らないよ?」

「最悪……っ!」

つい舌打ちしそうになると、パシャッ!とシャッター音。

「ちょっと!顔は写さないんでしょ!」

「そりゃ商品カタログには乗せないよ。でも、あまりに反抗的だと、お仕置きも必要でしょ?」

七原は憎たらしく笑い、「ねぇ?」と小首を傾げる。

その手元には、上半身を露出し、男の人に跨る私の写真。

「友加里ちゃんは知らない人とエッチすることだって、抵抗なかったんだよね?だから、こんな嫌らしい恰好もノリノリでしていたんだもんね」

投げてよこされた数枚の写真。

――バニーガールの衣装を着て、ローターでナカを苛められたときのもの。

――猫耳を付けて、胸で男性器を挟んだときのもの。

――エプロンを付けて、成人男性相手に授乳させているときのもの……。

「や、めて……」

どの写真も楽しそうにしている自分。

恥ずかしさと後悔と……この写真の後に起こった出来事がフラッシュバックして、視界が潤む。

どのコスチュームのときの相手も、私服ですれ違えばみんな私に一目置くような男ばかり。

でも、むき出しの性欲と、圧倒的な力の差を前にすると、私は彼らに弄ばれることを許してしまう。

普段なら、絶対にしないような言葉も口にして。

「あー……ほんっと美人の泣き顔ってそそる……。ねぇ友加里ちゃん。ハプニングバーのスタッフって、そんなに気持ち良かった?」

七原は私に近づき、アソコの前張りをぺりっと剥がしてしまう。

「きゃっ……やだ、やめてよ!」

スカートの裾を慌てて降ろそうとしても七原に阻まれる。

脱毛済みの私のそこを見て鼻で笑った。

「えろい汁で濡れる前はほんっと子供みたいにつるつるだよね。脱毛していると舐めてくれる人、喜ぶでしょ」

「別にそういうわけじゃ……」

「えー?ここの毛の処理を完璧に仕込むくらい、あのバイトに入れ込んでた証拠でしょ?」

「ち、違う!あんなことするバイトだって、最初は知らなかったの!お、お金にも困って……」

「嘘はよくないよ。だって、お客さんとしても利用してたの、知っているよ。玩具も自前で、相手におねだりしてニップルサックまで用意していたんだもんね?」

――ダメ……全部、ばれてる……

逃げ場がない。

血の気が引いてくらっとした。

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