まなぶが帰ってこない。
買いだしに行ったっきりだ。
どことなく恐怖を感じた時にタイミングよく電話が鳴った。
あたしの頭はもうまなぶのことしかなくて、とっさに誰かと確認もせずに電話を出た。
「まな―‥‥‥」
あたしはこれを激しく後悔した。。。。
そう、電話に出たのはまなぶではなく、旦那の亮ちゃんだった。
「りょ‥‥亮ちゃん‥‥‥」
亮ちゃんはたった一言、あたしに残した。
「まなぶママ。あたしやっぱり旦那のところに戻ります」
「え?どうしたの?だめよあの中にいっちゃったら‥‥まなぶだって‥‥」
言え。言うんだ。
はっきりと、まなぶママには言わないと。
「‥‥‥まなぶママ、今までありがとうございました」
あたしはぬぐい切れない涙を流して笑った。
これでいいんだ。
これでいいと、早くこの暗黒な人生を終わらせないといけない。
あたしが始めたものだし、それでいいんだと。
————-
あれから数週間の時が流れた。
あたしはというと、旦那とお義母さんと3人暮らしをしている。
そして待ちに待っていたはずの誕生日旅行を迎えるのだった。
「若い子同士で行ってきなさい。自宅はお母さんが守るからね?」
「ありがとう母さん」
「お義母さんありがとうございます」
「いいのよ。あなたたちいろいろあったんだから、ゆっくり話し合いしなさいね?」
………
………
あたしは会社を辞めて、旦那の勤める会社の食堂の管理をすることになった。
そこでも問題はあるけど、亮ちゃんの奥さんと言うだけで良い待遇になる。
それが嬉しいと感じるように、と。そう、言われ続けた。
飛行機に乗る手前。
あたしはチケットをもらう前にトイレに行きたいと言い、
今はただ一人。
「あ、やばいハンカチリュックにいれたままだ‥‥‥」
あたしはハンドウォッシュで手を乾かして、長い手袋を身に着ける。
真っ黒なあたしの腕。
見れば見るほど汚らしい。
この手袋の下には縄の痕がくっきり残っているんだ。
仕方ないよね。あたしは途中で逃げ出して迷惑かけて‥‥‥。
その代償だと思えば、なんてことない。
なんてことないのに‥‥‥。
なんで涙が‥‥‥止まらない。
「会いたい‥‥‥会いたいよ‥‥‥」
胸がぎゅうっと捕まれる感覚に
あの日の、あの人の、あの人に抱かれる感覚。
同じシャンプーの匂い。
適当な性格なくせに妙に心配性で、誰よりもあたしをずっと見ていてくれた。
そんなあの人に会いたい。
だけどあたしは望んではいけないんだ。
戻れない。