恋のはじまり

甘く、解される

(これって、やっぱり……)

 私、史華あやかは気がついちゃいけないものを感じてしまった。

 通院している整骨院の担当さんが変更されてから早1ヶ月。

 新担当の井村雄司いむらゆうじ君の施術に私は大満足している。

男の人らしく力強くて、でも痛いところにじわじわ効くようなマッサージ。

気持ちいいし何より……

「うわぁ、相変わらずがっちがちっスね! 毎日おつかれ様っス。痛いところや辛いところ、他にはありませんか?」

 元気な笑顔にいやされる。

人懐っこい柴犬みたいでひたすらかわいい。

 愛されキャラの彼はスタッフをはじめお客さんにも「雄司」と気軽に呼ばれているから私もそれに習っている。

弟がいたらこんな気分なのかなぁ?

 一方で、気になるのは……。
………

………
「史華さん、骨盤のストレッチをしましょうか! 足あげてください」

 指示に従い、片足を上げる。

対角に位置する肩とひざを地につけられるように抑えてもらうのだが……身体がどうしても密着してしまうのだ。

(やっぱり……雄司君、ってる……?)

 最初は服のしわかとも思ったけれど、やはりテントを張っているような……?

 もちろん局部を凝視ぎょうしすることなどできないし、口に出して確認なんて以ての外。

 とがめたいわけではなくて、むしろ二十歳そこそこの彼が十歳近く年上の私にそういう反応になるのが驚きというか――こそばゆい。

 

 雄司君はがっしりとしたいかにもスポーツマンな体型だ。

脱がなくてもわかる筋肉の筋と腕の太さから、なんとなくそれも大きいんじゃないかと思う。

(このまま組み敷かれたら、抵抗なんてできないな)

 雄司君には申し訳ないけれど……いけない妄想が広がってしまうのだった。
………

………
「史華さん、背中を伸ばすので力抜いてくださいね」

「うぁっ! いったぁい……っ」

 うつ伏せの姿勢で腕を取られ、上体を起こす。

筋肉がよく伸びているのがわかる一方で、いかに身体が硬いかも実感した。

「息止めないでください、ゆっくり吐いて」

「はぁ、あぁっ……すっごい、気持ちぃ……」

 疲労でり固まった背骨や肩甲骨けんこうこつが丁寧に伸ばされ、痛いけれど気持ちいい。

息を吐くたびに吐息のようで恥ずかしかった。

「んんー、首の奥のとこ、ゴリゴリされるの気持ちいー……あぁっ! 肩甲骨も、ぐりぐりって、あぁんっ」

「……っ、い、いつも肩辛そうっスよね! 今度は仰向けになってください」

「うー……痛ぁ……」

「今日は股関節周りもよく伸ばしましょう。まずは右脚の膝を立てるッスよ」

「あぁっ! んんー……伸びるぅ」

 雄司君の身体が私の右足に密着して、そのままぐーっと胸に引き寄せる、その時だ。

「あ……」

 足の甲にはっきりと、それの存在を感じてしまった。

(硬っ……! てか)

 つい身体がびくんとしてしまったせいか、

雄司君は慌てて身を引き、赤面して、次の瞬間、かわいそうなほど青褪あおざめた。

「す、すみません……っ! その、当たり、ました……?」

「あ、いや、その、だ、大丈夫!」

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