同窓会の幹事を引き受けたのは、下心があったからだ。
私はテキーラ瓶を片手に、笑顔全開で彼の隣に腰を下ろす。
「先生、ちゃんと飲んでますか?」
「飲んでる飲んでる、皆ここぞとばかりにお酌してくれるからさーぁ」
そう冷や汗混じりに返事をしたのは、高校で私たちの担任をしていた
歳は30そこそこ、軽薄に振る舞いはするものの、本当は優しい人だと私は、私たちは知っている。
「先生、全然変わってないですね。三年ぶりなのに」
「水谷は大人っぽくなったねぇ。大きな口開けて大股開いて大笑いしてた子とは思えないな」
「ひどっ!セクハラですよ」
「えっ、ちょ、ちょっと水谷、水谷さん?ジョッキについでんのテキーラじゃないの、これ、ちょっと」
「セクハラで訴えられたくなかったら、ぐいっといってください。先生がめちゃくちゃお酒強いこと、私知ってるんですから!おーい、みんな!先生が飲むとこ見たいよねっ」
即座に、同窓生から「見たーい」という返事が返る。
私は目をギラギラさせながら、先生にぐいっとジョッキを押し付けた。
「え、えぇ……これアルハラじゃないのかなー」
「違いますよ。先生のことが大好きな生徒からのお願いです」
「もう、困ったなぁ」
先生は私の勢いと皆の声に圧されて、後ろ頭を掻きつつジョッキを煽った。
「ふ……ふふ、ふふふ……」
おっと、いけない。
私はニヤける口元を拭いつつ、眼下に広がるめくるめく光景を見やった。
「先生、大丈夫ですか?」
「う、うーん、大丈夫……」
先生は力の抜けた手を軽く左右に振って、ゆっくりと瞼をもたげる。
「あれ……、水谷?みんなは?ここどこ?」
「もうとっくに解散しましたよ。先生ぐうすか眠ってたから、私が付き添ってたんです」
「えっ?そうなの!?そ、それはゴメンね。いい大人が元教え子に迷惑かけて……」
眉を八の字にして謝罪する先生の可愛さに、私の胸はきゅんとときめき、ついでに下半身もきゅんと疼いた。
「そ、それでさぁ……俺の勘違いかも知れないんだけど、ここってさもしかして、もしかしてだけど……ホテルなのかなぁって。は、はは……」
口端を引き攣らせている先生は、そろりと私を見上げてくる。
私は先生の腰の上あたりを跨いだ体勢のまま、にっこにこの笑顔で頷いた。
「はい!ホテルっていうか、ラブホテルですね!」