私は中学を卒業して市内にある理数科の高校に入学した。
私の脚に対する好意が廃れてしまったあの日からの私と兄の関係については読者の想像に任せる。
私は高校に入るとアルバイトをはじめた。
それはピザハットのチラシを配るポスティングの仕事で、土日祝日に午前9時から13時までの4時間働いていた。
そのバイト先に齋藤学という大学生がいて、私がアルバイトをはじめて3ヶ月程経った或る日、私はその人と付き合う事になった。
彼は市内にある教育大学に通っていた。
彼は背が非常に高く痩せていた。
顔にはニキビやニキビ跡が多く脂ぎっていたが目鼻立ちが整っていて、特に二重の大きな目はニキビの多い肌とは似ずに瑞々しく澄み切っていた。
彼は私の兄と同じ高校にバスケでスポーツ推薦されて入学したらしく、なるほど背が高いわけである。
彼はポスティングでは無くキッチン・ドライバーであった。
ピザハットは休日忙しくなり、また人手も少なかったので彼は土日祝日は朝から夕方まで働いていてゆっくり二人きりでデートをする機会が無かったので、彼の出勤しない月曜日と木曜日は彼が私の通っている高校に迎えに来てくれて、土日祝日は私が彼を迎えに行って、一緒に帰った。
彼は本を読むのが好きで特に谷崎潤一郎という作家の書いた小説が好きだった。
しかし彼が特に私に自分の趣味を強要するような事は無かったので、谷崎潤一郎についても特に何も聞かなかった。
私は昔から本を読むのが嫌いだったのだが彼と付き合うようになって彼の好きだという谷崎潤一郎の小説を試しに読んでみることにした。
しかし昔の作家で所謂文豪と言われるような人の作品であるから長い物より短い物の方が良いと考えて、私は『刺青』という僅か9ページ程の物を読んでみた。
時は江戸時代、若い腕利きの刺青師である清吉が自分の理想の肌をした美しい娘に蜘蛛の入墨をして、その娘を妖艶な美しい女にする、そんな話であった。
この作品の中で清吉が娘に或る絵巻を見せる描写がある。
その絵巻というのが2つあり、1つは古の暴君の
もう1つが桜の幹に凭れた若い女が、足元に倒れている色々の男達の死骸を誇りと喜びの溢れた目で眺めている絵。娘はこの2つの絵巻を目の前に出されて震え
そして自分にこの絵にあるような女の血が流れている事を白状する。
私はその部分を読んで何とも言いしれぬ興奮を覚えた。
そして2つの絵を何度も頭に想像して自分の血が雄叫びを上げて流れるのを感じた。
或る月曜日の日暮、いつものように2人で歩いていると、「今日家に寄ってこない?」と聞いてきた。
私は喜んで頷いた。
彼の家は以外にも私の住んでいる家と近かった。
そこは8階建ての古いマンションで、彼の部屋は602号室であった。
彼の家は彼らしく綺麗で本やノートがきちんと本棚に整然と収められ、隅々まで掃除が行き届いていた。
20分程雑談をしてから彼は私の頬に突然キスをした。
びっくりして私は暫く彼のいたずらっぽい笑みの浮かんだ顔を見つめていた。
そして彼は再び、今度は私の口にキスをした。
彼が清潔な布団を敷くとその上でお互い服を着ながら(私は制服を着ていた)抱き合った。
彼は抱き合ったまま手探りで私のスカートを上に上げて、太ももを愛撫した。
「脚綺麗だね」
彼は私の首筋にキスをして、お互い下着姿になった。
私は制服のボタンを外したりして少しだけ時間が掛かってしまったが、彼は布団の上に座って優しい眼差しで私を見守っていた。
彼は私の足元に移動すると、両手で足首から脛、膝、そして太腿の上を滑らかにすべらした。
「本当に綺麗だ」
彼の目は血色の良い女を見るドラキュラのような目をしていた。
突然私の足を持ち上げて折り畳むと、
そして足裏を舐めると、膝下を持ち上げて両太腿にまた顔を埋めた。
そして太腿を獣のようにかぶりついて舐めていた。
「琴音、俺の事を足で踏んでくれないか」
そう言うと彼は仰向けに寝転がって私を催促した。
私はそんな事を言われて非常に驚いてしまったが、言われた通りに彼の胸を踏みつけた。
「顔を踏んでくれないか、遠慮しなくていいから」
私は彼の顔を右足で踏んだ。
すると彼はそれにしゃぶりついた。
その様は、まるで1週間ぶりに飯に食らう
私は自分の足に踏みつけられて抑え難い喜びを表している彼を見るのが何とも愉快であった。
私はこのとき
私は自分の足に犬のようにすがりつく彼を見下ろして、心の底から喜びを感じた。
あの日から私達は奇妙な情事を繰り返した。
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それから8年後に私と彼は結婚をした。
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そして今は2児の母である。
この前夫の部屋を掃除していると、本棚から谷崎潤一郎全集が全てなくなっているのに気がついた。
部屋の外で子供が仲良く遊んでいた。