マニアック

ごほうびマッサージ

「檜山様。お待たせいたしました。本日研修生として同席させて頂きます相良と申します」

サンプルオイルのトレーを持ってきた新人さん、相良君はにこにことして可愛い。色っぽく落ち着きのある原田先生と対照的な童顔イケメンだ。

……やっぱり顔面偏差値が高い。

「ご用意いたしましたオイルは、ベルガモットとバニラ、ラベンダーとローズマリーです。いずれもリラックスできる鎮静効果が含まれているものです。どちらになさいますか?」

一つづつ嗅がせてもらうと、柔らかなアロマの香りにくらりとした。私は香水などの人工的な匂いが苦手なのだけれど、この四つはどれも素晴らしい質だと思う。

「えぇー……どれもいい香りで捨てがたいけど……バニラ、かなぁ」

「いいですねバニラ。俺も好きですよ」

相良くんはにこっと笑った。

そのあどけない笑顔にきゅんときたのもつかの間、「相良」と静かな声が個室に響く。

「相良、一人称」

指摘した原田先生の表情はちょっと怖い。

「え、あ!すみません!こちらのバニラですね!私も大変おすすめしております!」

あわてて言い直す相良君は若干変な日本語だった。

微笑ましくてくすっと笑ってしまう。

「すみません檜山様。相良は施術の筋はあるのですが、どうにも口調が粗暴でして……」

「いえいえ。お若いですもの。まだまだこれからだ。頑張ってね」

応援すると相良君は嬉しそうに「はい」と頷く。

オイルの準備のために退席したところで、先生が私に耳打ちした。

「あんまり甘やかしちゃだめですよ?」

「ふふっ。可愛いんですもん。愛される年下わんこ系って感じで」

「わんこだと油断していたら狼かもしれません」

「あはは。それはそれで可愛いかも」

そうですか、と原田先生がいたずらっぽく笑う。

その笑みはすごくセクシーで色気がだだもれてる。

うん。相良君はともかく、先生は肉食系っぽい。

私は指示に従いガウンを脱ぐとうつぶせになる。

ベアトップタイプのワンピースは背中でボタンが外れるので、ほとんど半裸の状態なのだけれど、相良君に癒されたおかげで緊張も少しほぐれていた。

「では、失礼しますね」

ふわっとバニラの香りが室内に広がった。

「まずは上半身からオイルを塗っていきます」

原田先生の大きな掌がオイルとともに背中を滑る。

うなじから肩にかけて筋をなぞられ、背骨や肩甲骨を剥がすような手つきに溜息がこぼれる。

「ここ、かなり張ってますね」

こりっと肩を親指で押されたとき

「ひゃん!」

ピンポイントすぎる気持ち良さに嬌声が上がってしまった。

(うそ……今の、私の声……?)

喘ぎ声みたい、と恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。

「気持ちいいですか?」

原田先生は親指を大きく旋回するように、ごりごりと肩からうなじにかけてもみほぐしていく。

凝ったところが明白になるその動きは声が我慢できなくなるほど気持ち良い。

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