竜くんの車の後部座席に乗ろうとドアを開こうとした。
そうすると竜くんは助手席のドアを開ける。
促されたままのあたしはその助手席に乗り込んだ。
走る車の中、竜くんの横顔はかっこいい。
正直、拓とは違う魅力がある。
…あーあ、悲しいな。
「兄貴とは…いつ同居するのですか?」
「え?んー…まだわかんない」
「寂しくないですか?」
「…寂しい。今日だって大切な日なのに…悲しい気持ちで心が折れそう」
つい本音を言ってしまった。
ダメだ…なんだか初めての経験でボロボロだよ。
こんな気持ちになるなら初めから好きにならなきゃよかった。
そんなマイナスなことばかり浮かんでしまう。
ツラいよ…
「なら、忘れましょう」
「え?」
竜くんは暗い路地の隅に車を停める。
そして降りてあたしの助手席を開くと腕をつかまれて下ろされる。
前を見ると、とある会社の裏口だった。
よくよく見ると、拓の会社だ。
そしてふらつきながら歩いて、とある部屋に入った。
「りゅ…」
「しっ」
人差し指をあたしの口に当てて制止した。
その部屋の壁に耳を当てると、竜くんは何かを確認してあたしを見る。
なんだか嫌な予感はある。
「涼音さん。これから真実をお見せします。壁に耳を当ててください」
言われるがまま、あたしは耳を壁につけた。