私、泉は今日も仕事で疲れきった身体を引きずるように
今日の夕飯をどうしようか、昨日は何であったかと思い出そうとして、
昨日と一昨日と先一昨日の境界線がひどく曖昧であることにげんなりした。
繁華街が近い職場なので、すれ違う人々は華やかな風貌の人ばかり。
私はショーウィンドウにうつる自身のグレースーツを見て
――私、いつまで仕事も私生活も
「ねぇ、おねーさん! ちょっと時間ない?」
「……は?」
鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはまさにこのことで。
ぼうっとしていたため、反応が遅れる。
視線を上げると軽い口調そのものの風貌の男が二人。
にやにやと下品な笑みを浮かべる男たちに嫌悪感が浮かぶ。
「……すみません、ないです」
通り過ぎようとしたが、前に立ちふさがれ、体が接触した。
「痛ってぇ! やば、折れたかもー」
軽くあしらおうとしていた私はどろりと嫌なものを感じた。
――これは、面倒なやつかも……
「おいおいおいおいまさかそのまま行っちゃう気ぃ?」
「きゃっ……」
肩をいからせた男が私の肩を掴んだ。
強い力と、生臭く、酒臭い息にひるむ。
両脇を男に挟まれ、一人はうなじを掴んできた。
ぬるい体温に肌が泡立つ。
誰か、と助けを求めようにも、道行く人々は足早に私達を避けていく。
冷や汗とともに
「あっ! こんなところにいた! 遅いよぉー!」
「待ち合わせ場所に全然来ないから探しましたよ」
ほとんど叫ぶような低い声がして、正面からやってきたのは金髪ロングとふんわりパーマの二人組。
金髪の人が、私の肩に乗せられた手を振り払った。
「この人たち、友達じゃないですよね?」
二人とも、女性、と一瞬錯覚する装いをしている。
(ニュ、ニューハーフ?)
濃い化粧をした二人組は、ヒールも相まってナンパ男達より背が高い。
女の化粧をしていても、イケメンであることを隠しきれていなくて……
もちろん見覚えのある顔ではない。
私の肩に手を回した男を振り払った金髪ロングの人は冷ややかに男たちを見下ろし、
私を自身の背に回るよう手を引く。
ふんわりパーマの人は私に
「少し我慢してね」
と耳元でささやき、手を繋いだ。
「先約はこっちなんで、ごめんなさいね」
ぽかんとしている男達を尻目に、かつかつとヒールを鳴らして退散する。
気の利いた言葉を話す余裕もなく、私は必死に二人についていくことしかできなかった。