マニアック

一難去って大当たり

 そんなことはつゆも知らないクララさんが黙った私に気を遣う。

「あぁ! ごめんなさいね泉ちゃん! あたし達ばっかり喋ってる!」

「いいんです。私、自分のこと話すの、あまり得意じゃないですし。

……最近、毎日が似たり寄ったりだったから、二人と話せてすごく刺激的です」

「そう? 楽しめているならいいけど……そういえば泉さん、付き合っている人はいるの?」

「いないです」

「いたら『迎えに来て!』って連絡しているところでしょ?」

「あはは……いたことないからわかんないや」

「えぇーマジで! 手堅くモテそうなタイプなのに!」

「いやそんなはずは……告白されたこともないわけではないんですが、

なんかこう、ワケありとか難ありな人が多くてちょっと……」

 煮え切らない私にハイジさんが

「男性不信気味ってこと?」

と助け舟。こくりとうなずく。

「あー、泉ちゃんって既婚者とか童貞に好かれそうよね。

大人しくていい子そうだから、傷つけられたくない! 

自分が主導権を握りたい! ってタイプの奴がいかにも好きそう」

 クララさんのそれはあまり聞きたくない分析結果だが、なるほど、的を得ている。

「私、人の機嫌を取るのが下手というか、先んじて空気を読む能力がそんなに敏感ではなくて。

だから、ちょっといいかもって雰囲気になっても、結果的につまんない奴って言われちゃうんです」

「もしかして好かれるタイプと相性が合うタイプが永遠に反比例しているのかもよ」

「相性、ですか」

「そ。これまで泉さんに言い寄ってきていたのは、安定志向っぽい没個性タイプだったんじゃない? 

つまり、全面的に個性が出ている相手なら、

『この人のことを知りたい!』って興味も恋もくすぐられるんじゃないの」

「あらーハイジったらいつになく学のありそうなことを言うのねぇ」

「何かの本で読んだのよ。

相手のことをもっと知りたいという知への飽くなき欲求は全ての愛に通ずるってね

……ってかいつになくって失礼ね。あんたといっしょにしないで頂戴」

 ――好奇心をくすぐられるような欲求……。

 私はじゃれ合う二人をよそに、しばし思考を巡らせる。そして

「それでしたら、私が今一番知りたいのはお二人のことですね」

 口にした瞬間、一間、静寂が降りた。

そして二人は顔を見合わせる。

 いたずらを思い付いた猫のように不敵に笑うクララさんと、

へぇと関心した様子で頷くハイジさん。

「泉ちゃんって結構肉食?」

「思ったより大胆なんだね」
………

………
 自分でもそう思う。お酒の力かもしれないが

……口にした言葉は、ずっと吐き出したかったそれでもあった。

「お二人のセクシュアリティを伺っても?」

「あたしはヘテロ。女の子の服装で、女の子といちゃいちゃするのが好きなの」

「私はバイね。どっちもタチ」

 試してみましょうか、とは誰も言わなかった。

 ただその場の空気が、明るく楽しかったものから、しとやかに淫靡いんびなそれを含ませる。

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