「今どき珍しいオラオラ系だったわねぇ」
と、ふんわりボブパーマのクララさん。
「ステレオタイプであってもダサかったけれどね」
と、金髪ロングのハイジさん。
某アニメを連想する源氏名は本名にちなんでいるらしい。
………
………
まっすぐ帰ると逆恨みで後を付けられるかもしれないから、
どこかで時間をつぶすかタクシーを使うかした方がいい、と二人は私を気にしてくれた。
その時になって、急に一人になることが怖くなった。
男二人に道を阻まれただけで、あんなにも身体が硬直してしまったのだ。
必死に抵抗しても自分の力で逃げるのは難しいだろうし、
あれだけ人通りの多い場所でも助けてくれたのはこの二人だけ。
どうやら私の顔色は真っ青だったようで、
二人は自分たちの職場がすぐそばなので休んでいってもいいと言う。
私は
「酔っぱらったノリで絡んでくるのが一番厄介よねぇ。
なんであぁいう奴らって『声をかけてやっただけありがたいと思え!』って態度なのかしら」
こっちだってあんなのお断りだわ、
と鼻で笑うクララさんはカシスオレンジをサーブしてくれる。
「……クララさんもあるんですか? 今日の、私みたいに絡まれること……」
「んー。夜の街で働いているとそう珍しい話じゃないわね」
「道の反対側から『おーいオカマ野郎!』なんて叫ぶ馬鹿もいるしね」
けっ、とやさぐれたようにハイジさんは続ける。
「そういう奴らの共通点って、泉さんわかる?」
「……一人じゃない、ですかね。そして絡む相手が一人でいる、とか」
当たりぃ! とクララさんとハイジさんの声が重なった。
そのまま「いえーい」とナゾの乾杯。
「一人じゃなーんにもできない情けない奴らなのよ。
今日のことは犬の糞でも踏んだことにして忘れるといいわ。もしくは酒の肴にでもしなさい」
「ちょっとハイジ!
クールでシニカルな印象のハイジさんととっつきやすいお姉さんっぽいクララさん。
二人のポンポンと続く銃撃戦のようなトークは聞いていて心地がいい。
いつの間にか悪口から全然違うトークテーマに話が飛躍したりもしたけれど、
私の日常にはなかったそれはとても新鮮なものだった。
………
………
(そういえば私……)
プライベートで男性と喋るの、いつぶりだろう。
いや、二人を男性と言っていいのかはわからない。
ちらりと視線を上げる。
明らかに女装をわかる風貌のハイジさんはドラァグ・クイーンが登場するミュージカルをイメージした服装だそうで、
ボンテージ風のドレスから逞しい筋肉が見え隠れしている。
対照的に、男の娘っぽいクララさんは高身長でも似合うフェミニンな装いで、
ハイジさんと一緒にいなければ女装家とは思われないかもしれない。
濃い化粧を施した二人が、普通の男性とは違うのは明白。
でも、そもそも私は世間一般の男らしい人にそそられないし、
二人が今日顔を合わせたどの人間よりも魅力的であることは間違いない。
(二人は――抱かれる人、なのかしら)
むくむくとせりあがる好奇心。