「ん?どうかした?」
助手席からぼんやりと鈴村ひさしを眺めていると、視線に気付いたのか、ひさしはちらりとミノリに視線をうつした。
黒縁眼鏡に黒い癖毛、相手に警戒心を抱かせることのない、柔らかい雰囲気をもつ男性――
ひさしは、ミノリの三週間前にできた彼氏だった。
ミノリより2歳年下で、年齢よりも少し若く見える。
よく言えば草食系、悪く言えば優しいけれどちょっと冴えない、ミノリはそう彼を評価していた。
とはいえ、好きになったのはミノリからで、今だってミノリの方が彼のことを好きだと思う。
彼自身にはなんの不満もないが、しかし――セックスに対しては、正直期待は出来なかった。
(……今日これから、するんだよね……)
土曜日一日デートで街を歩き回り、ご飯を食べ、今はひさしのアパートへと向かっている。
初めてのお泊り。それはつまり、そういうことになるだろう。
曖昧にはにかんだミノリを緊張しているととったのか、ひさしはへにゃりと笑った。
その頬が少し紅潮していて、かわいいな、と思う。
ミノリの大好きな彼氏だ。
だからきっと、セックスが上手じゃなくても、きっと幸せな時間になるだろう――
そうは思っていても、気持ちがいいセックスがしたいなあ……
そんな我儘で自分勝手な願望があることは否定できなかった。
………
………
………
ひさしの部屋につくと、交代でシャワーを浴びた。
初めての彼の部屋に、ついドキドキしてしまう。
今日買った部屋着を来て部屋に戻ると、ひさしがシャワーを浴びに行った。
シャワーの流れる音を聞きながら、ミノリはベッドに腰かける。
すう、と深呼吸をすると、ひさしの匂いが胸いっぱいに広がった。
期待と不安で、心臓がドキドキする。
きい、とシャワールームの扉が開く音がして、そちらを振り向けば髪の湿ったひさしの姿があった。
普段よりも癖毛がくるりと丸まり、しかし水に濡れてまとまりがある。
いつもしている眼鏡を外していて、初めて見る彼の姿にキュン、と胸が
ベッドに腰かけたミノリのもとに、ひさしが近付いてくる。
言葉もなくミノリが身体を動かすと、ひさしがその上にのしかかるようにしてベッドへと上がってきた――。
ゆっくりと、二人の身体がベッドへと沈み込む。
上から落ちてくる唇は柔らかくて、ミノリはそっと瞳を閉じた。
「ん、んふ……」
ちゅ、ちゅ、とついばむような口づけは、やがて深いものとなっていく。
唇の表面を擦り合わせながら、ひさしの舌がそっと挿し込まれる。
ぬる、とした柔らかなそれにミノリも舌を動かし、絡め合わせた。
舌と舌がこすれ合い、お互いを求めてどんどん深くなっていく。
唾液が唇を濡らし、互いの呼吸を奪い合いながら、二人は夢中になってキスをした。