「離してよ」
「離さない。お姉さん、一人で寂しかったんじゃない?」
「そんなわけないでしょ!離さないと叫ぶから!」
「叫んだって気付かれないって、わかってくるくせに」
「うっ……」
図星だった。
それに、もし誰かに気付いてもらえたとしても、特に何かをしてもらえることもないだろう。
この場所で、こんなことはよくあるからだ。
そもそも元から恋人同士だとしたら、何の問題もない。
モラルの問題はあるが……。
もちろんめちゃめちゃに叫んでいたら助けてもらえるだろうが、今この状態は、たまたまここで知り合った二人がイチャイチャしている――
そんな風に見えてしまうかもしれない。
「ね、名前教えて?俺も一人なんだ。一緒に楽しもうよ」
男の唇が、耳に触れるか触れないかの距離でそう甘くささやく。
そうされると、私の身体は勝手に反応してしまう――
ぞく、と甘く震えた背筋に気付かれてしまったのか、男はまた耳元でくすりと笑った。
「じゃあ先に俺ね、ケイスケって言うんだ」
「ケイ、スケ……」
「そう、お姉さんは?」
「……ひとみ」
「ひとみちゃんね」
男のペースに飲まれている。
わかっているのに、答えてしまう。
男の作り出す雰囲気から逃れられなかった。
アルコールがじんわりときいてきた身体に、男の温かい身体。
まわりは誰もこちらを気にしていなくて、低音の響くフロアはリズムに合わせて地鳴りするかのように震えている。
「ちょっ、と……!」
「楽しもう、ひとみちゃん」
男の手が、上に上がって私の胸に触れる。
Tシャツに、ぴたりと身体にそったデニムを着てきた私のTシャツの上から、男の掌がむにゅりと胸をもみ始めた。
大きな掌がゆっくりと円を描くようにして動き、
「ふううっ……!」
舌先で一番感じる強さで耳をなめられて、思わず声が出てしまった。