彼のライブに通い続けてアプローチ攻撃
木島さんが出演するライブが行われるのは、大きなホールを使うこともあれば、個人経営の小さいジャズバーで行われることもある。
そこで、私は個人経営の小さいジャズバーの方に着目し、見に行くライブは毎回小さなジャズバーを狙ったのです。
まず彼のオフィシャルサイトに掲載されているスケジュールから、私が行ける距離にある小さなジャスバーで行われるライブに予約をしました。
家では一つにまとめて結んでいる髪をほどき、流れるようなウェーブになるようにブローをして、体の線がわかりやすい服を着て行った。
暗闇の会場でも私の存在がわかるように、キャビンアテンダントのような華やかなメイクで決めていた。
木島さんが演奏する小さなジャズバーの会場は、演奏者と客席との距離が近い。
私はいつもその小さなジャスバーの最前列の席に座り、彼が奏でるリズムに合わせて体を揺らしたり、熱心に拍手をしたりして、自分の存在を木島さんにアピールし続けた。
ライブには2~3ヶ月に1回の頻度で通い続け、ライブに通い始めてからちょうど1年がたった頃のことだったでしょうか。
演奏を始める寸前に客席を見渡す瞬間、曲間のトークをする時、演奏を終えた時に客席に向かってあいさつをする時。
私は木島さんがこちらを見ていると確信できることが多くなったのです。
そこで、私は彼のオフィシャルサイトに、
「1年ほど前からファンになり、いつも会場の前の席で聴いています」
と私の特徴も添えてメールを出してみた。
すると、
「あぁ、最前列の席で聴いてくれている方ですよね。よく知っているよ。いつもありがとうございます」
そう返信があったので私は、
「来月の名古屋でのライブにも行きます。とても楽しみにしています。城山真由美」
と本名を隠して仮名を添えて送信したが、その後、木島さんからの返信はなかった。
しかし、1ヶ月後に名古屋でのライブを終えて、いつものように最前列の席で座っていると、1人の男性が近づいてきて私の耳元で囁いたのです。
「城山真由美さんですか?」
その男性は木島さんのマネージャーらしく、私にこう言ったのです。
「木島の楽屋に招待しますので、こちらにどうぞ」
しかし、ついて行った場所は楽屋ではなく、関係者専用の廊下から死角になった駐車場の入り口の扉の前でした。
そのまま連れて行かれた場所で待っていると、数分後、タキシードからシャツに着替えた木島さんが1人で現れたのです。
「真由美ちゃん!」
彼はそう言うなり、私を強く抱き締めてきました。
「いつも熱心にライブを聴いてくれているよね。ずっと前から気付いていたよ。今日も来てくれて嬉しいよ」
「私もこうして会ってもらえるなんて、とても嬉しいです」
私も木島さんの背中に腕を回して抱き締めた。
まるで何年も前から恋人同士のような自然さで、お互いしばらくの間無言のまま抱き合いました。
「・・・あの~、すみませんが・・・」
木島さんのマネージャーらしき声が後ろの方から聞こえ、私の体は漸く彼の抱擁から解かれました。
そして、メルアドを交換して、その晩は別れることにしたのです。