元々は時間がない予定だったが、早く終わったおかげで時間が出来たのだ。
せっかく旅館にきたのだから、温泉につからなければ――愛子は鼻歌を歌いながら一人、温泉へと赴いた。
誰もいない貸し切りの露天風呂はとても気持ちよく、一日の疲労が飛んで行ってしまう。
「はあ……きもちいい……」
仕事も早く終わったし、温泉にも入れていい仕事だったなあ……なんてまだ終わってもいないのに愛子はそう思った。
あとは寝るだけだし、明日の撮影だって半日で終わる予定になっている。
温まった身体に浴衣を羽織り、一人部屋に戻った愛子だったが――扉を開けると、「えっ」と思わず声を出してしまった。
「あ、愛子さんおかえり」
和室の部屋、奥にある窓際の椅子に、ミズキが座っていたのだ。
片手には日本酒を持っており、頬がじんわりと紅くなっている。
「え、え――?」
まさか部屋を間違えたのか、と思ったが、部屋の隅には愛子の荷物が置いてある。
困惑する愛子を見て、ミズキはくすりと笑った。
「へへ、来ちゃった」
その言い方がまさに「年下のかわいい男の子」という感じで、そのかわいさに心臓が痛いほどにキュンとした。
冷静になるために「はあああ」と大きく息をはく。
かわいい男というのは本当にいけない、男性へのときめきというより、なんとも言えない母性のようなものが刺激されてしまう――。
「ミズキくん……お酒飲むなら、自分の部屋に戻ってね」
マネージャーらしくあらねば、と気持ちを切り替え、ミズキの方に足を進める。
ほら、と手を差し出すと、「やだ」とミズキは唇を尖らせて見せた。
「それに明日だって撮影があるんだから――飲みすぎもだめだよ」
ミズキの手からおちょこを取り上げる。
「えー」と文句を言うミズキのもう片方の手からとっくりを取り上げようとし――その瞬間、手首を引かれて愛子は倒れこんだ。
「え?え?」
何が起きたかわからず困惑する愛子の身体が、ふわりと宙に浮く。
とさ、と身体が何かにおろされ――それは、旅館によくある大き目の椅子だった。
先ほどまでミズキが腰かけていたものだ。
部屋の奥、ローテーブルとイスが二つ置かれたそのスペースで、なぜかミズキに椅子に座らされている。
何が起きているかはわからないが、すぐ目の前に彼の顔があり――状況が理解できる前に、彼の掌が愛子の浴衣の紐をするりとほどいた。
「えっ」
ぱさ、とひもが床に落ちる音がする。
前で重なっていた浴衣が紐が無くなったことによって開き――慌てて抑えようとした手をミズキにつかまれる。
おふざけでもこれは流石に、と抵抗しようとした愛子だったが、ミズキの手で抑えつけられて動くことが出来ない。
その力にどきりとする。
「ちょっと、」と文句を言おうとした愛子の耳元に、暖かい吐息があたった。
「見せて、愛子さんの身体――」
耳元でかすれたミズキの声。
その声はさっきまでのかわいらしい年下の男の子の声ではなくなっていた。
愛子がゆっくりと視線をあげる。目の前に迫ったミズキの瞳の奥に劣情の光が灯り――その顔は、いつものミズキではなく、欲情した男の表情だった。
こくり、と愛子の喉が鳴る。
その視線に身体が硬直し、抵抗できない愛子の浴衣がゆっくりと前で開かれ――下着をまとっただけの愛子の身体がミズキの目の前へと晒された。
もう寝るだけなのだから、と浴衣の下にはブラジャーと下着しかつけていなかったのだ。
白い腹とむっちりとした太もも、ブラジャーに包まれた柔らかい胸とすっと浮き出た鎖骨。
愛子は恥ずかしくて仕方がないが、ミズキはその身体を舐める様に見つめていた。
ミズキがどういうつもりなのか理解できない。
それでも、ミズキの瞳に見つめられて、愛子の身体はじわじわと熱を帯びていた。
心臓がどきどきして、恥ずかしさと緊張に息が浅くなる。
引き締まった身体をするミズキにこんな身体を見せるのが恥ずかしくて逃げてしまいたいと思う。
「愛子さん…下着とって、もっと見せて……」
それなのに、ミズキにそう吐息交じりにささやかれ、愛子は言われるがままにブラジャーを外そうと背中へ手をまわしていた。
「は、は……」
緊張と、興奮で息が浅くなる。
外していいのだろうか、止めなければいけないのではないのだろうか。
そう思うのに、目の前の彼の視線に操られるようにして手がブラジャーのホックを外してしまう。
苦しい程に心臓が跳ねている。
愛子はゆっくりと、ブラジャーを外して床へと落とした。