マニアック

モニターのお仕事

「お金が……ない……」

通帳の残高を眺めながら、松永真由美まつながまゆみは悲痛な声色で嘆いていた。

山ばかりの田舎からこの地方都市に出てきて5年、小さい会社で正社員として働いてきたが、住宅費や生活費に数字はどんどん減っていく。

贅沢をしているわけでもないのに毎月カツカツで、貯金どころではないような状態だった。

そして今月もまた、ギリギリのところでの生活だ。

この生活もさすがにいつまでも続けていられない、と真由美は本業とは別の収入源を見つけるべく、スマートフォンでアルバイトを探していた。

「大体時給1000円とかだし……この金額で働くなら残業した方がいいのかあ……」

本業と別で働くにしても、体力や時間の問題もある。

それであまり稼げないのならば、会社からの給料をなんとかするか、それとも転職するべきか……どちらにせよ負担は大きそうで、真由美はため息をついた。

「もう地元に戻った方が……いやいや、そんなことは……でもいいところ見つからなかったら結局はそうなるかな……」

スマートフォンを指でスクロールし、目についた求人を開いていく。

そのページからリンクで飛んで、またリンクを飛んで……そうこうしているうちに、最初に見ていたサイトとは違う、シンプルなホームページにたどり着いた。

企業のサイトのようだが、それがなんの会社かはよくわからない。

ただ、白い背景に赤文字で「モニター募集」と書いてあった。

「モニター募集……って、え、一回一万円!?」

会場に行って実際に商品を使い、大体二時間ほどで終わるらしい。

それで一万円がもらえるなら、時給にしたら本業よりもはるかに高い。

しかし、説明を読んでいくうちにそのモニターの内容が特殊なことに真由美は気が付いた。

………

………

「アダルトグッズ……かあ……」

ここ数年恋人もいない真由美にとって、それは少ししり込みしてしまうような内容だった。

モニターとして、ちゃんと仕事がこなせるのかもわからないし、やはり怪しい気もする。

でも今はとにかくお金が稼ぎたい……

真由美は、思い切って応募のボタンを押してしまった。

現れたフォームはメールアドレスと電話番号、それから名前を入力するだけの簡単なものだった。

(やっぱり辞めた方がよかったかな……)

後悔し始めた真由美だったが、その瞬間、着信の音が部屋に響いた。

画面には知らない番号。

慌てて出ると、女性の声が聞こえてきた。

「モニターにご応募いただき、ありがとうございます」

優しくて、少しも怪しくないしっかりした対応の女性だった。

それに真由美も安心し、改めてモニターの説明を受ける。

書いてある通り時間は大体二時間ほどで、当日一万円が支払われるらしい。

モニターの内容が内容なのと、会社といってもほとんど趣味でやっているようなものだから、という理由で、書類の提出などは不要と聞いて真由美は安心した。

それなら周りにばれてしまうこともないだろう。

「はい、じゃあ、お願いいたします」

モニターをする日は今週の日曜日、場所は駅の近くの雑居ビルという説明を受け、電話は切れた。

アダルトグッズ、と言っても要はただのモニターなのだ。

先ほどの女性の対応に随分気持ちは軽くなり、いいバイトが見つかった、と真由美は思った。

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