――なるほど。
タブレットでシナリオをざっと読み、最初に口にした感想だ。
一間、二間あって、顔を誰にも見られないように掌で覆う。
(ちょっとぉ! 最終的にこのヒロインさ、さ、三人でしちゃってるじゃん!)
ダメだ。絶対に顔を上げられない。
絶対茹でタコのように赤面している。
全年齢対象バージョンのシナリオはこうだ。
………
………
………
平凡なOLはある日突然出向帰りの課長に秘書になるよう迫られ、
同時期に初恋の人とも再開する。
一方で腐れ縁の幼馴染ともひと悶着あり、
行きつけのバーの店長にはピンチを助けられ……
乙女ゲームの醍醐味、イケメンの大渋滞が起こるわけだ。
各キャラクターごとにシナリオがあり、
攻略キャラを一名ずつ選択できる。
相対して。
一八禁バージョンは相手役を最終的に二名まで絞り、
三名でことに及ぶエンドがスタンダード。
しかも少しずつアブノーマルな性癖を暴露していくキャラクター達との絡みのシーンは濃厚なんてもんじゃない。
(乙女ゲームって名前のエロゲーじゃん……なんて羨ま……いやいやいや!
貞操観念ってなに? みんなこういうの経験したいものなの……?)
顔を上げると百面相をしている私を由紀さんが心配そうに見ていた。
(確かに考えてみれば変な話よね……)
社内コンペ用の動画を撮影するのにわざわざ素人を連れてくるなんて。
社内で企画のために使うだけの動画にプロを起用するのはコストがかかりすぎる。
一方で、社員の誰かがモデルをやるにしても性的なシーンがある以上セクハラになりかねない。
美味しい話には裏があって当然なのだ……
――美緒がどこまで想定していたのかは不明だけれど。
だが、背に腹は代えられないのもまた真実。
「……大丈夫、やります。やらせてください」
「ほ、本当に?」
「むしろ、その、私こういうの経験なくて……
ぶっちゃけ漫画の知識しかないから妄想力ばっかり逞しいのですが……」
「それは大丈夫! 全部こっちでカバーするから!
助かるわ! 正直代役なんて今更探せないし」
私の表情は血気迫るものがあったようで由紀さんは多少引いていたが、互いの手を取った。