「‥‥‥ねぇ春樹。なんで大学であたしに声かけてくれたの?」
「ん?それは‥‥‥その‥‥‥」
言葉に詰まった春樹。
もしかして、高校時代陰キャだったあたしをからかうため‥‥‥?
「今は付き合ってんだからいいだろ」
「昔のあたしじゃないから面白がってるの?」
「は?何いってんだ??」
「今までありがとう。じゃ、さようなら」
「待てよ
あたしは春樹の制止を聴かずにそのまま部屋から出て行った。
‥‥‥
‥‥‥
‥‥‥
それからあたしは大学には行けなくなった。
春樹が気がかりで。
昔のあたしを覚えているのなら、絶対に見た目が変わったことを追及されるはず。
けど‥‥‥春樹はなにも言ってこなかった。
働けなくなったために始めた、建築会社の受付業務。
男性の営業さんばかりで苦手なところはあったけども、
大学で春樹と顔を合わせないなら、どこでも天国だ。
あの過去を忘れたかったから離れた、という結果にとしては大成功だった。
あの日から2か月が経つ。
春樹とは会わないように、場所も変えようと決めた。
地元にも、都会のこの町にも、居場所がない。
あたしはこの先どうなるんだろうか。
春樹と再会していなかったら‥‥‥こんな感情や人生が変わることはなかった。
………
………
「真雪ちゃーん」
神妙な面持ちで受付に座っていたら、ある営業さんに声をかけられた。
「あ、はい。どうしましたか?」
「帰り送ってくよ」
「いや、大丈夫です」
「でも外見てみなよ。猛吹雪で前も見えないし」
モデルルームの窓から見ると、確かに天気は荒れていた。
「あ―‥‥‥でも‥‥‥」
「いいから。じゃ、終わったら迎えにくるねー」
「え?いや、
そう言い残して営業の楠さんは受付から自分のデスクがある別の部屋に戻ってしまう。
楠さんはけっこう昔から下ネタが多くて、みんなから避けられている男性だ。
あたしにはそんな下ネタ言わないからきっとデマなんだろうなと。
そんな安易な考えをあたしは後悔することになる。