「さ、咲さん?」
「あ、あはははは」
何笑ってるんだ私。
下半身全裸で。
ぎりぎりシャツの裾が長かったから、ぎりぎりヘア自体は見えていないと思うが、右手に握るショーツのせいで、そんなことはもはや関係なかった。
「ご、ごめんなさ……」
「ちょ、入って」
私は健くんを部屋にとりあえず入れた。
ドア口で話していると、隣の悠斗に全部聞こえてしまう。
部屋の中で話していても似たようなものだが、廊下よりは幾分ましだ。
とはいえ、状況は何も好転していなかった。むしろ最悪といっても過言ではない。
「え、えと……」
下半身全裸の女子高生と、部屋に無理やり連れ込まれた男子高校生。
この状況で通報でもされたら、私絶体絶命。
「こ、これはね……」
「あ、あの一人でしてたんですか?」
「ま、まあその……」
言いよどんだ私。でも、こんなところで弁明しようとしても無駄だった。
「そうです……」
「も、もしかして、俺たちの話、聞こえてました……?」
「え、いやぁ……」
ここはなんて答えるのが正解なのだろうか。
その時の私は必死で考えた。
ただ、そこで嘘をつくのも何か違うような気がして、私は結局こう答えた。
「その、はい。聞こえてました」
「それで、一人でしてたと……」
「そう、ですね」
いや、変態じゃん。
冷静になった私は、自分にそう突っ込んだ。
隣の部屋の弟たちの会話を盗み聞いて、興奮して、オナニーして、下半身むき出しのまま弟の友達を部屋に連れ込んで。
状況だけ見たら、私立派な変態じゃん。
「じゃ、じゃあ」
「は、はい」
顔を真っ赤にしている健くん。
いや、そうだよね、普通下半身裸の女子高生と一緒の部屋にいたら緊張もするよね。
「俺が、咲さんのこと好きだって話も、聞こえてたってことですか?」
彼の声は、消え入りそうなくらい細い声だった。
え、今この状況でそれを気にする、とは思ったけれど、同時に、彼も不安なのだろうな、とは思った。
「うん、聞こえてたよ」
私は真面目に聞こえるように答えたが、何分下をはかないまま告白されるという状況が異質すぎて、正直それどころではなかった。
「あの、俺、咲さんのこと、好きです」
「え、こんなヤバいやつだけど大丈夫?」
「そんなこと関係ありません!」
「ないんだ」
「で、俺と、付き合ってくれますか?」
「うん、こんな私でもよければ」
会話がもはやギャグだったが、告白の返事自体はちゃんとできた。
すると、彼は私に一歩近づいてきた。
「あ、ちょっと」
私は思わずあとずさりしてしまったのだが、そこで大変なことが起こった。
脱ぎっぱなしにしていたショートパンツに足を取られ、ベッドに倒れこんでしまったのだ。
「あぶないっ!」
彼は私の方に駆け寄って、私を抱き寄せた。
でも、それがほんの少し間に合わなくて、結局二人でベッドに倒れこんでしまった。
彼が、私に覆いかぶさるような形で。
「さ、咲さん」
「は、はい。なんでしょう」
「キスしていいですか」
「え、ちょ、ちょっと待って」
イケメンの思い詰めるような表情。
間近で見ると、こんなにも迫力があるのか、なんて私は他人ごとみたいに思ってしまっていた。
「俺、咲さんのこと、ずっと好きだったんですよ」
「そ、それは嬉しいけどさ!」
「そんな人のこんな姿見ちゃったら、もう我慢できません……」
「え、えええ!」
いや、分かるよ、分かるけどさ!
でもちょっと待ってよ!