主任が手際よく片づけを進めてくれたおかげで部屋はすっかりきれいになった。
酔い覚ましに、とふるまったお茶と一緒に春香ちゃんからもらったチョコレートを二人でつまむ。
「わっ……これお酒入ってますね……!」
喉が焼けるように熱く、どろっとしていた。
ウィスキーボンボンってやつなのかな?
「菅野さんはあんまりお酒強くなかったよね?これ、きついんじゃない?」
「しょ、正直言うとかなり……!」
六個入りだけれど、一個でギブかもしれない。
主任が二つ目をつまむ。
「僕はそこそこ強い方だけれど……うん。このまま食べたら酔い覚ましにはならないかも」
「お茶、新しいの持ってきましょうね」
一体何度のお酒が入っていたんだろう。ちなみに、春香ちゃんはお酒にめちゃくちゃ強かったりする。
私はキッチンでケータイをチェックする。春香ちゃんからいくつかメッセージが届いていた。
(えーと『今日は本当に準備ありがとう』『チョコは今日中に二人で食べて』『ここまでお膳立てしたんだから何かは起こしてよね』って……ハードル高すぎ!あ、泉谷君は無事送れたんだね……)
一応主任に声をかけておこうと思ってリビングへ声をかける。
「主任。春香ちゃん、無事泉谷君のこと送れたみたい……って、主任!」
ローテーブルの向こう側で、主任は背中を丸めていた。
「大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫……いや、だめ、かも……」
「えぇ!お酒回っちゃいました?どうしよう、横になったほうが……」
「いや!元気なんだ、その、元気になってしまって困ったというか……」
「……はい?」
とりあえずよくわからないけれど、飲みすぎにはひとまず水分を入れなきゃと聞いたことがある。水を取ってこようとしたとき、メッセージを受信した音が響いた。
――そこには
『あと、あのチョコ。媚薬入りらしいよ。プラシーボ効果っぽいけどね!』
今、この状況を物語るしかないメッセージがタイムリー過ぎるタイミングで舞い込んだ。
「……ごめん。見えた」
早瀬主任が「ははは……」と、遠い目をしている。
そして、私も見てしまった。
「あっ……」
我慢できずに、声にも出してしまった。
前かがみで隠そうとしているけれど、主任のそれはスラックスを重たく持ち上げている。
「……」
大丈夫ですか、と言うべきなのか、でもそれは明らかに大丈夫じゃないと思う。
「あの……主任、その、私でよければ、その……」
「ごめん!」
私の言葉が続くよりも先に、主任が私に頭を下げた。
「こんなおっさんのみっともない姿なんか見たくなかったよね。仮にも上司なのに」
「そんな、そんなことないです!」
「はは……菅野さんには本当に気を使わせてばっかりだね……申し訳ないんだけど、シャワー貸してもらえないかな」
早瀬主任の困ったように笑う表情は、優しさの中に男っぽさがあるからとても好きだ。
でも、今の、我慢しているような、私の言葉を信じてくれていない様子は、すごく嫌だ。
「お風呂、入って頂くのは構いません。……でも、そこでスるんですか?」
「……冷水を頭から被れば収まってくれるかと」
――もう、本当にこの人は。
きっと、どんなに言葉で伝えても、この人は私に遠慮を続ける。
そういう余裕が、まだあるんだ。
我慢できる、理性が。
そう思った瞬間、私の中で、何かが