「待ってくださる?良かったら俊のリモート家庭教師してくださらない?」
「へ?」
「旬はものすごく嫌がってるの。けど将来のためにあの子の成長は必要不可欠。このままにしておいては後継ぎはできないのよね…だから、せっかく出逢えた偶然ですし…いかが?」
「でも…拒否されてる相手をなんて…」
「もちろんバイト代は奮発しちゃう!」
「はいよろこんで!!!!」
現金に目がないあたしはすっかり乗ってしまった。
翌日からさっそく授業は始まった。
画面越しに移る旬哉くんはとにかくイケメン。
けど冷めた表情をしている。
まるで…親を亡くしたあたしみたいな…
「じゃ、初めまして旬哉くん。私は講師の大川莉音です」
「……」
「(反応しろ)今日はお母さまが苦手としてる国語を中心的に極めていきますよ」
「それより脱いで」
「…はい?」
あまりの突発的な言葉に思わず聞き返した。
だってね…あたしの聞き間違いだったら大変だし。
「だから、ここでぬ・い・で」
上から目線の旬哉くん。
黙ってるわけにはいかない。
ここでバシッと年上がしかるべきところだ!!
「あのさ、これからの授業はあくまでも―…「保健体育だから。早く脱いで」」
あたしの話なんて聞く耳持たない。
これが最近の若い子か…
怖いというかあきれるというか…
とりあえず一喝入れよう。
「よく聞きなさいな高校生のおちびちゃん」
「は!?おちびちゃん!!??」
「そうよ。いい?まず年上には礼儀正しく。そして言葉遣いも慎重に。それから自分の欲求のみを優先するのではなくて、他人を考えた上での行動をしなさい」
「……」
「返事は?」
「…」
「…何かがあって今こうしてあたしと話してる。それは代えられない事実なの。受け入れることによって人間は学んでいく」
「お説教かよ」
「アンタみたいな人間には必要だわ。優位にしか立てない人間は底辺。けどアンタはそう感じられない。無理してる。つらいくせに」
だから―…と続こうとしたところ、映像は止まって音声のみになった。
「アンタの住所教えて。俺、勉強道具もっていくから」
「?いいよ」
…
…
ピンポーン
とインターフォンが鳴った。
旬哉くんだとわかったあたしは玄関の鍵を開けた。
「いらっしゃい」
「…」
「さて、上がって。何か飲み物いる?」
「俺、二人分缶コーヒー買ってきた」
「あー気が利くじゃん!コーヒーは好き」
「なんかおかしある?」
「あるよ。座って待ってて」
よく考えれば、ここで気づくべきだった。
この後の話を考えれば、異性を自宅にいれるとは、の意味の怖さに気付くべきだった。