―これが『愛情』なの?
あたしはわからなくなる。
ただ思うのは、あたしは専務に守られているということ。
ただ願うのは、専務に被害がおこらないでということ。
ああ、あたし…
こんなに儚く誰かを好きになることができるんだ…
これが愛情なんだ…
………
………
………
「咲菜ぁ?」
あたしは今、愛情を持たない相手とセックスをしようとしていた。
けれどもいつものスイッチが入らず濡れない。
「咲菜、俺入れれない」
「…ごめん」
「わかった、俺がリードするからもっかい…」
楓くんは必死にあたしの膣付近を舐めてくれているけど…全く感じない。
「咲菜…もしかして」
だめ言わないで。
「本気の恋愛してる?」
聞きたくなかった。
認めたくなかった。
「なんで!?誰!?」
「知らない!」
「なんで俺じゃないんだよ…」
「楓くん?」
「俺に恋してくれよ!!」
「んっ!!」
楓くんは無理やりキスをしてきた。
いつもはしないディープキス。
口内を楓くんの舌が這う。
「んんむ、んー!!!!」
ドンドン、と楓くんの胸を叩くと、観念したのかゆっくり離れた。
「咲菜。俺は本気だから」
「うそ!だってあたしはただのセフレで…」
「そんなん咲菜が勝手に思い描いてる世界だよ。セフレなんて存在しない」
「ごめ―…「俺を好きになって。咲菜」」
泣きそうな瞳で訴える楓くんに、あたしは答えられない。
「ごめん」
あたしはそう言って楓くんのモノに触れた。
少しでも楽に、少しでも気を収めてもらうために。
けれども楓くんはあたしのその差し伸ばした気遣いの手を振り払って立ち上がる。
「本気だって、俺を認めてほしい。俺は咲菜に心あるから」
「楓くん…」
「もしも次、俺に触れることがあるとしたら、俺はそれがどこだろうと、誰がいようとかまわずに咲菜を求める。咲菜の心も気にしないで抱くから。それだけは覚えておいて。…今日は帰る。じゃぁな咲菜。…おやすみ」
楓くんは悲しそうな瞳であたしに背中を向ける。
たまらなくなってあたしは玄関から出ようとしている姿を追った。
「風邪ひくから。今夜はごめんな。早くベッド入って寝なよ」
「楓くん!」
「それに、あんまり俺にかまうと濡れてないだろうがなんだろうが犯すぞ」
「!」
「したくないから、帰るだけ。…俺は大丈夫だから。自分を大切にな」
………
………
………
本当に悲しい瞳。
あたしは何をしているんだ。
今まで求めていた『愛情』に気づくと、今まであたしを求めてくれていた人の『愛情』に気づけなかった。
楓くんは本当に、あたしに『愛情』をくれていたんだ。
あたしはリビングにあるカレンダーを見て、黒木専務に拾われたことを思い出していた。