マニアック

私に最愛の影を見る風俗通いの男

優しさと欲望が入り交じる愛撫に心は淫らに変貌

私はこの際だからと、彼に対して抱いていた疑問を尋ねてみた。

「なぜ、ヘルスに来ているのに、最初、私の体を求めなかったんですか?」

「あぁ、それはね、何ていうか・・・、お恥ずかしい話なんだけど、人肌が恋しかったん
だよ・・・。帰宅しても誰も出迎えてくれない日々だったから、つい、ね・・・」

苦笑いしつつ、彼はさらに言葉を重ねた。

「でもね、今はそれも少し後悔してる。その時間、彼女の実家を訪ねて、彼女のために
もっとたくさんそばにいてやっていればよかったと考えてしまって・・・」

「それなら、私も婚約者の彼女さんにごめんねと謝らないといけないですね・・・」

私がそう返すと、また彼は少し涙ぐみ、鼻が詰まった声で私に告げた。

「里穂ちゃんは本当に優しい子だね・・・」

「い、いえ・・・、そんなことは・・・」

そこから私たちは無言となり、車中には彼の鼻をすする音だけが聞こえていた。

 

それから30分ほどで、婚約者が眠っている霊園に到着した。

2人でお墓の前に屈んで手を合わせる。

私は会ったことがない彼の婚約者に、心から手を合わせた。

「彼の時間を奪ってごめんね、ゆっくりお休みください、いつかまた彼と天国で会え
ますように・・・」

手を合わせ、私がそう言うと、また彼は隣で涙しているようだった。

帰り道、彼は待ち合わせた駅まで私を送ろうとしたが、寂しいんだろうな・・・という
おせっかいの気持ちから、彼を食事に誘うことにした。

彼はビックリしていたが、その誘いを受け、かなり高級なホテルのレストランに連れて
行ってくれたのです。

私はいざレストランに入ると、何だか恐縮してしまい、彼に声を掛けた。

「お店でたくさんお金を使っていただいているのに、こんな高級なところへ・・・、
何だか申し訳ない気持ちです」

「いえいえ、今日という日は思い出になりましたし、少し心も晴れましたから・・・」

彼はそう言うと、一番奥の夜景スポットであろう席までエスコートしてくれた。

思う出という言葉が、少し私の心まで曇らせ、彼に影響されて少し涙した。

食事がデザートに差し掛かる頃、彼の顔がまた曇り始める。

私は無言のまま、テーブルに置かれた彼の手を握った。

彼はビックリした様子ではあったが、私の手を握り返して言葉を紡いだ。

「どうしたんですか?」

「いえ、お名前も知らないのにすみません。でも・・・、今日は思い出ですから・・・、
私の添い寝は嫌ですか?」

私がそう言うと、彼は意を決した顔で優しくほほ笑み、また言葉を続けた。

「思い出・・・、そうですね・・・、ありがとう」

彼はその場でボーイを呼び、ホテルの部屋を取らせた。

この時の私は、彼に同情し、できることなら少しでも彼の心を癒やしてあげたいという
気持ちになっていた。

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