当時の冬水君はそれはそれはもうモテにモテてモテまくっていた。
一方で、全てにおいて平々凡々な生徒である私。
冬水君とは高一の時クラスメイトで、その当時はそれなりに仲良く会話できていた……はずなのだが。
冬水君の親衛隊みたいな女の子達にやっかまれるようになり、ちょっと距離を意図的に開けたところ、
いつの間にやらとんでもなく嫌われてしまっていた。
………
………
「榊って誰にでもご機嫌を取り繕おうとヘラヘラ笑うよね。それ、気色悪いから」
何がきっかけだったか忘れたけれど、確か私が冬水君と仲のいい男の子と話していた時だったと思う。
突然浴びせられたそれは、私の心を凍らせるには十分だった。
その場にいた誰もが私達の不仲を察し、面白がり
「あの冬水君と拗れるなんて、榊ってやばい奴なんじゃね?」
と誰かが言った。
故に、私は数少ない友人がさらに淘汰され、薄く浅い交友関係しか築けないまま高校を卒業した
――以降、冬水君とは顔を合わせていない。
思わずこぼれそうになったため息を堪え、トイレに備え付けられた水道で、これまた備え付けのタオルを浸した。
「ねぇ、それ何しているの?」
「シャワーないからせめて身体拭こうと思って」
「やる気満々だね。ご無沙汰だった?」
「……早く出たいだけだよ」
こんなギスギスした空気でセックスって……え、無理じゃない?
「……あのさ、冬水君。ごめんけど悪い知らせ」
「今度は何」
「私、セックスでイったことない」
「……へぇ」
「だから、前戯での絶頂がカウントされるか確認したい」
「そ、いいんじゃない?」
『そっけないオブザイヤー』でも目指しているの? とツッコミたくなった。
(あのさぁ、この意味わかんない状況がムカつくのはよーくわかるよ?
でもストレスの矛先が私ってのはおかしいんじゃないかなぁ?
さっさと済ませてさっさと出るほうがいいと思うんだけど、不貞腐れるのやめよ?)
口に出そうにも、喉を通らず、何故だかへらりと口角が上がってしまう。
冬水君がそれを嫌うとわかっていても……
癖なのだから仕方がない。
はぁ、と大きなため息をつかれた。
「まぁ、確かに挿入以外でもカウントされるならそれに越したことはないよね」
「え」
冬水君は何を思い立ったか、ばさりと服を脱ぎ捨て、上半身裸になる。
「ほら、おいで」
「あ、はい……」
ベッドに上がった冬水君に招かれ、のろのろとそちらへ寄ると
「ぐずぐずするなよ」
と手を引かれる。
「きゃ……わ、ん」
私を抱き止める力が思いの外優しくて
――その心地よい香りに、心臓が跳ねる。
そのまま、顎をぐい、と取られ上を向かされた。
ふに、と重ねられた唇がちゅっちゅっと優しく啄む。