忍び愛

「ああ…もう、だめ…。ゆるして…」

私は自分の声ではないような声で、彼にそう言った。

でも、彼はまだ許してくれない。

繋がったまま腕を引っ張って起こされて、私は夏樹君の上にまたがるようにして座らされた。

私が自分から動こうとするよりも早く、夏樹君の腰が動いて下から突かれる形になった。

この体位は苦手。1番気持ちいい所にすごく当たるから。

彼もそれを分かってるからやるんだけど。

「いやあああっ…！」

私は悲鳴をあげていた。

彼はそんな私を楽しそうに見てた。

気持ち良すぎておかしくなる。もうダメ。

「お…ねがい…。もうゆるして…」

喘ぎながらそう懇願したら、また繋がったまま押し倒されて突かれる。

「いやあっ…！」

私が泣きながら叫ぶうち、彼は絶頂した。

私の中が彼の出した物で満（みつる）たされる。1番幸せで切ない瞬間。

「旦那さんとはやってないのか？」

ベッドで2人でゴロゴロしてたら、夏樹君が尋ねてきた。

「やってないよ。初夜で泣き叫んで、その後も話しかける度にビクビクするような女を抱く気になる？」

「俺だったら、受け入れてくれるように努力するかな」

「努力する価値のない女と判断されたんでしょ。ちょうどいい」

それから1時間ほど経ってから、夏樹君はまた女装して帰宅した。

彼を見送ってから部屋に戻ると、スマホから着信音が鳴っていた。

姉からだった。

『真菜、もう帰って来ても大丈夫よ。満（みつる）さんの会社、もうダメだから。さっさと離婚しなさい』

「まだ5年経ってないよ？」

『5年はもつと思ったんだけど、予想以上に満（みつる）さんは無能だったみたい。こっちの会社の経営権は私達夫婦が握ってるから、今さら父さんも母さんも何も言えない。だから、あんたは自分の幸せだけを考えてればいい』

「ありがとう、お姉ちゃん」

私はスーツケースとハンドバッグを手に取ると、家を出た。

いつでも出て行けるように荷物をまとめていたし、不要な物は買わないようにしていた。

………

………

………

家から離れた場所で迎えを待っていたら、どこから帰って来たのか分からない満（みつる）が慌てた様子で家の中に入っていくのが見えた。

それからすぐに私を迎えに来た車が到着した。

乗り込んだその車が動き出してから後ろを見ると、満（みつる）がまた慌てた様子で外に飛び出してきてキョロキョロしていた。

バカな男。

この男が会社の経営を継いでからは、会社の業績はだだ下がりってのは知ってた。

だからこそ、大きな取引先の娘である私と結婚しなければならなかったというのも分かってた。

でも両親は満（みつる）の口のうまさに騙されてた。祖父や姉ほどの経営能力もなければ人を見る目もない両親は、娘の結婚相手の能力を見抜くことができなかったのだ。

私と結婚したからって、既に倒れかけている会社にエサを撒いてやるほど姉は甘い人じゃない。

私のスマホが着信を告げた。

スクリーンに表示される名前を見て、私はさっさと電源を切った。

………

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………

やっと私は1人の女に戻れる。