学生もの

そんな彼は今の夫です。

わたしの名前は鈴木菜摘(すずきなつみ)。

今年の春に中学を卒業して、公立の、とても平凡な高校に入学した、十五歳。

わたしには好きな人がいて、それは同じクラスの、バスケ部に入っている、平松直樹(ひらまつなおき)という男子。

平松君は非常にイケメンで、背の高い、ほんとうに理想的な人。

何より性格が良い。

その性格はまさしく「紳士」と呼ぶに相応しく、いつもは例え教室にいても誰とも話さず一人で読書をしているような、静かな人なのだが、

それでも一つ声を掛ければ、彼は爽やかな顔をわたし達に見せてくれる。

バスケが上手く、一年生なのにもうレギュラーメンバーに選ばれているらしく、実際に夏の大会ではエースとして活躍したらしい。

そして勉強も出来た。

これで心優しく素直な人間なのだから、当然みんなに好かれた。

しかし平松君は友達を作って彼等とワイワイ騒いだりする事よりも、一人で静かに過ごしている方が好きらしい。

その為平松君は教室ではいつも一人でいたけれど、それは決して友達がいないのではなかった。
………

………

平松君は朝が早い。

学校のある平日は、毎朝8時にはもう自分の席に座って本を読んでいた。

わたしはそれを知って、以前は朝が苦手で常にギリギリの時間にやっと学校に来ていたのが、それからは早起きをして必ず8時には間に合うように家を出た。

そして自然とわたしは平松君と教室で二人っきりになる事が多くなった。

早朝の青白い教室。

ドアを開けて、わたしは平松君を意識しながら元気よく挨拶をする。

すると平松君の挨拶が、美しい音色でわたしの耳へ響いて来る。

その美音を聞きながら、わたしは彼の端正で爽やかな顔を少しの間、恍惚な気分で眺める。

平松君はまるで西洋人のような顔をしていた。

特に大きな目と高く鋭い鼻、そしてハッキリした輪郭が、とても西洋人らしく見えた。

しかし平松君は純日本人で、その事が更に彼の存在を輝かせた。

わたしは席に着いて、カバンを机の脇に掛けて、それから颯爽と平松君の所へ向かう。

平松君は前から二番目、右から三番目の席に座っていた。

わたしがその方へ歩いて行くと、平松君は本を閉じてわたしを振り返る。

わたしと平松君は誰かが教室に入って来るまで何か他愛のない話をして、涼しい静かな朝の時間を過ごした。

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